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アマゾンを拓く=移住80年今昔=【ベレン・トメアスー編】=《22》=拳銃持って自主検問も=自警団で防犯体制強化

ニッケイ新聞 2009年9月25日付け

 草刈武さんのような人物はそうそういない。ならば組織的に治安問題を解決していかないと、安心して暮らしていくことはできない。
 トメアスー文化協会の海谷英雄会長(66、山形県出身)も治安に頭を痛めている一人だ。
 「トメアスーでは『火事は小火(ぼや)のうちに消せ』を徹底しています。些細なことでも連絡してもらい、警察に徹底的に捜索してもらう。警察が姿を見せれば泥棒が萎縮し、再発防止に効果がある」との考え方を説明する。
 「14~15年前に大事件が起きたのをきっかけに自警団が作られた」と苦い記憶を振り返る。敢えて、その時の詳細は語らない。
 でも90年代後半は、デカセギ帰りが「ドルを持っている」と思われ、日系人を狙った凶悪強盗団が跋扈した時期だった。このへんの事情は北伯に限ったことではなく、サンパウロ州、北パラナでも同じだったが、対策の練り方に違いがあった。
 トメアスーでは、日系人相手の強盗事件が起きると、警察の理解を得て、自警団4~5人が地区に独自の検問をはり、ピストルを持って通る車を全部点検した。
 ここまでやって、犯罪者に対して防犯の強い意志を誇示しないと、実際に犯罪を減らすのは難しい。しかし、それを行うのにも、官憲の理解が不可欠であり、それも簡単ではない。
 「事件が起きれば夜中でもやる。とにかく命がけ、必死でした」と海谷会長は振り返る。
 各区に1人防犯委員を置くので約15人いる。区内であやしいことが起きれば、すぐさまこの委員に連絡してもらい、委員は文協に伝え、文協事務局長が警察にお願いする連絡網ができている。
 未然に防ぐことが重要なので、警察に巡回してもらうことは欠かせない。放っておいたら畑から農産物を盗む泥棒は次々に際限なく現れる。
 海谷会長は「文協はコロニアの市役所のようなものとして警察も一目置いてくれている」と説明する。「しかし、警察も巡回費用がバカにならないことから、強制ではありませんが、防犯経費として1軒当たり年間60リットル分のガソリン代の寄付をお願いしています」。単に口でお願いするだけではやってくれないと、身にしみて分かっている。
 「ここでは追跡調査をしないから現行犯逮捕しないとダメ。それを期待するより、未然に防ぐよう防犯活動に力を入れることは重要です」と実践的な発想で対処する。
 そのおかげで成果は上がっている。海谷会長は「今はだいぶ治まった」と胸をなでおろす。
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 連合会である汎アマゾニア日伯協会の堤剛太事務局長も、「トメアスーは実績を上げている。むしろ、警察の方が防犯委員会に頼っているぐらい」と高く評価する。
 「農業が儲かる時代には地方の日系人が襲われることが多かったが、今はベレンの高級マンションが狙われたりするようになり、町の方があぶないぐらい」と情勢の変化を分析する。
 トメアスーのような警察と緊密な体制を作れるケースは例外的といえる。日系人は一般に警察と仲良くして防犯活動をするのは得意でない。それゆえ、日伯協会が働きかけて地方に自警団を作ってもらっている。
 このように地方だけで解決できない問題が起きると、日伯協会が北伯日系社会の代表機関として、中央の州保安委員会に「何とかしてくれ」とお願いして防犯活動を強化してもらい、実績を上げてきた。
 堤事務局長は「常日頃から、軍警将官とご飯を食べたり、近い関係をつくり、何かという時に備える。我々は犯罪対策で手をこまねていない」と強調する。
 「州保安局と日系社会がタイアップしながら日系社会の防犯、すなわち地域社会の防犯対策に力を入れ、その効果的な組織の機能から確実にその地域で犯罪率の減少を勝ち取っています。このために、保安局は当協会と97年に治安対策の公式な協約まで結んでいるほどです」と胸をはる。
 地方と中央の日系団体が連携して、治安問題を公の機関に働きかけて解決していく。この団結した姿勢を見せることは、他の地域でも見習うべきものがあるようだ。(続く、深沢正雪記者)

写真=海谷英雄会長