ニッケイ新聞 2009年9月30日付け
「米国発経済危機などと騒がれているが、その認識はふさわしくない」。竹中平蔵・慶応大学教授(元総務大臣)は、ブラジル日本研究者協会(SBPN、仁山進会長)が26日から28日まで開催した、日伯間の経済と環境をテーマにした「日伯交流シンポジウム2009」で、そう基調講演を切り出した。サンパウロ市内ホテルで開催され、ブラジル日本商工会議所(田中信会頭)が共催した。3日間で日本企業、日系企業などから約320人が参加、メモを取りながら熱心に聴講した。講演は、日ポ両語で行われた。
竹中教授は28日に「日伯とアジアの経済関係」をテーマにした基調講演を行い、今回の経済危機が始まる以前に、米国以外の国ですでに成長率が著しく低下していたことを例に挙げ、「世界でマルチな経済危機が同時に崩壊した」との見解を披露した。アメリカ経済悪化はきっかけに過ぎないとのと考え方だ。
同教授は昨年に続き来伯し、現在は同協会日本支部長を務めている。
ブラジル経済の回復が早いことなどに言及し、竹中教授は「アメリカ経済の回復を待つ必要はない」と強調した。その一方で今年中国のGDPは日本のそれと同じレベルに達しているなど、新興国の成長を解説した。
「問題意識を共有する専門家のネットワークが大切、同研究グループなどで日伯間の意見交換を活発にしていこう」と前向きな提案をした。
鳩山由紀夫首相が先の国連気候変動サミットで温室効果ガスを25%削減する国際公約した点にも触れて「日伯間で環境問題に協力できる」とし、具体的には日伯間で注目されてきたバイオエタノール車、さらに電気自動車への期待感を示した。
先月の民主党への政権交代に関しては、「政権交代は政党間に緊張感をもたらし、良い影響を生むのではないか」と判断する。しかし、麻生政権の不安から導かれたとする新政権、「積極的に民主党が選出されたとは言い切れない点に不安が残る」と懸念を示した。
外交に関しては無難なスタートと見解、マクロ経済のシナリオなど財政枠組みに関して未だ何も示されていない点を疑問視した。
ゼッツリオ・バルガス大学の中野慶昭教授(元サンパウロ州財務長官)は「ブラジル経済の展望」というテーマで講演した。
「ブラジル経済には耐久性があり、今回の経済危機にもすばやく立ち直ってきた」と解説。「家庭の貯蓄を増やす政策がブラジル経済の足腰を強くする意味で重要」と話したほか、「さらなる市場開放と輸出品目の多様化などが課題」と強調した。
来場者の一人、CBC重工業の原口正辰社長は「政権交代に伴い、今後の政府の動きを竹中教授がどう判断するのか楽しみに来た」とし、「経済も長い目で見ることが大切、そのイメージを掴むことができた」と話していた。南米安田保険の米倉立二郎社長も「竹中教授の講演は実際皆が感じていることではないか」とうなずいていた。