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【解説】=諸刃の剣といえる政策=もっと議論を深めよ

ニッケイ新聞 2009年10月9日付け

 外国人の社会保険(医療保険、年金)加入に関して、従来問題とされてきたのは、外国人本人が保険加入を求めているのに、雇用企業側が雇い主側負担を嫌って加入させないケースだった。
 今回、外国人労働者問題協議会が陳情するケースは逆ともいえるもので、政府側が加入を強制することを問題だとする。
 これは「諸刃の剣」だ。
 どちらに行きすぎても、在日ブラジル人には良くない結果を生む。
 『在日ブラジル人社会保障制度の加入実態調査報告書』(平成19年3月、日本総合研究所、外務省委嘱調査)によれば、在日ブラジル人で社会保険に加入している人は6割に達している。残り4割が未加入だ。
 加入者が入った理由の項目では「自分で選択」が86%を占めており、入ろうと思っている人の大半は加入している。
 加入者のうち正社員となっているのは76%で、日本人同様に厚生年金などに加入していると見られる。残りの非正社員(派遣など)は24%で、自主的に国民年金保険に入っているのだろう。
 来年4月からビザ更新時に義務化が実施された時、加入済みの6割には関係がない。
 問題は、残り4割を占める未加入者だ。
 未加入者の3割が正社員ということになっているが、正社員にも関わらず社会保険に入っていない。本人が正社員と認識しているが、厚生年金には入っていないので、実態としては準社員や契約社員などだろう。未加入者の残りは非正社員(派遣など)だ。
 この未加入者の73・4%は自分で未加入を選択している。未加入を選んだ理由は「保険料が高い」(59・4%)、「日本で払うメリットがない」(28%)が大半を占める。
 本来、最も問題となるべきは、自分で加入を希望しているが何らかの理由でできていない人たちであり、それが未加入者のうちにどの程度いるのか、残念ながら報告書には記述がない。
 昨年末で31万人いた在日ブラジル人のうち、すでに5万人以上は帰伯したが、その多くは雇用が不安定な派遣社員のようだ。つまり、日本に残っている約26万人のうち、正社員で社保加入層の割合は高まっている。
 つまり、26万人のうち7割が加入者になっていれば、未加入者は8万人であり、この層を直撃するのが、今回のビザ更新時に社保加入を義務化する政策だ。
 日本企業からすれば、手軽にクビにできる派遣社員こそ必要だ。日本人より安く使えるメリットがなければ雇いたくないし、その分、他の無資格滞在外国人や外国人研修生の闇雇用に流れる可能性も大いにある。
 この部分が、いわゆる〃雇用の調整弁〃ともいわれる部分であり、今はギリギリまで削られていても、好景気には大きく膨らむ。在日ブラジル人にとっては痛し痒しの部分がある。
 ただし正論の部分からすれば、在日ブラジル人からすれば子供の教育の点からしても一カ所に定住できるような正社員としての定職が望ましいのはいうまでもない。
 もっといろいろな観点から議論を深める必要があるだろう。(深)