ニッケイ新聞 2009年10月22日付け
「日本語を勉強する道を選んで良かった」―。優勝が決まった直後、マルケス・ペドロさん(23、サンパウロ市)は感動した面持ちでそう語った。広島県人会で18日にあった「第3回県連ASEBEX弁論大会」(県連・ASEBEX共催)には、日本語を学ぶ21人(うち非日系人は5人)が出場、「私のまわりの日本文化」をテーマにふるった熱弁に約200人が耳を傾けた。
開会式では主催者を代表して宮崎県人会の長友契蔵名誉会長が「夢を実現するには人を説得するのが大切。日本語での弁論で人間としての〃窓〃をいくつも作り、自信をつけてください」と挨拶した。
大会は3部に分かれ、15歳から27歳までの参加者が自らの体験や調べたことをもとに発表した。
日語の幼稚園で働く安楽あゆみさん(三位)は、「現在の家庭では日本語を使わない子どもが多い。日本の歴史などに興味がなければ、『祭り』など、分かりやすいものから日本文化を伝えていけば良いのでは」と若者ならではの意見を語った。
小田崎アレサンドラさん(二位)は、「日本の古典音楽は寂しい感じがしたが、当時の映画や本を読むうちに、とても美しいものと感じるようになった。文化とは一過性のものでなく、コツコツと積み上げるもの。音楽を通して日伯を融合させたい」との解釈を披露した。
優勝したマルケスさんは「人間関係」も文化と捉えた。日本人独特の距離感の取り方を「興味津々」としたうえで、『謙遜』について、「ブラジル人にはあり得ない発想。日本人は自分の能力を矮小して語り、しかも念のため謝っておく。外の顔と内の顔がしっかり分けられている」と分析、「日本文化は金閣寺ではなく、銀閣寺のように繊細。私も周りに気を遣えるような人になりたい」と締め括り、見事日本行きのチケットを勝ち取った。
サンパウロ大学総合哲学文学人間科学部日本語学科で学んだ。現在は同大学文学部で日本語を教えている。
最後に審査員の多田邦治さん(「椰子樹」元編集長)は、「テーマである〃文化〃にとらわれ過ぎ。日本文化には目に見えないものが多く、それを取り上げて欲しかった」と講評。
杉本俊和審査委員長は「我々はどうしたら日本文化を残そうか悩んでいるが、若者が日本文化を積極的に求めているのは嬉しい」と感想を語り、「上手下手ではなく、どれだけ文化を分かっているかが大切。審査員と演者との真剣勝負とすれば、楽しい勝負ができた」と締め括った。
◎
入賞者は次の通り(敬称略)。一位=マルケス・ペドロ(23)、二位=小田崎アレサンドラ(20)、三位=安楽あゆみ(18)、四位=矢倉定一(24)、五位=滝浪仁(15)。また、今年から審査員特別賞が設けられ、生田康三(17)が選ばれた。
なお、一位から三位には神奈川文化援護協会(村田洋会長)から二宮賞として、二宮金次郎のブロンズ像が贈られた。