ニッケイ新聞 2009年11月24日付け
日本には古本屋が多く全国に約2400店もがあるそうだ。なかでも東京の神田古書街はよく知られ、あの狭い処に150軒超が歴史や哲学などの古本を並べている。明治時代の始め頃に大学が神田に次々と誕生したので古本屋が店を出したのがきっかけとなって発展した町であり、もう130年を超える歴史を誇る世界一の古書店街なのである▼あの辛亥革命を導いた孫文や中国首相の周恩来も、日本に留学していた若い頃にはよく神田を訪ね古本屋に足を運んだと古老らは語る。古本といっても、絶版になったものや稀覯本、江戸時代の書籍と貴重な物が書棚を飾っている。勿論、売れ残りの雑誌や単行本の「ぞっき本」を売り捌く店もあり、勉学嫌いの軟派には人気だった▼こんな伝統に輝く古書街のフアンはかなり多く、今も月刊誌に特集が組まれたりする。古本屋が店を並べる神保町には独特な匂いというか格別な雰囲気があって朴念仁の心をもなぜかしら穏やかに和むから不思議なものである。近頃はジ・メンデス広場付近にも横文字の古本屋があり、毎年の秋に開かれる「神田古本まつり」の風情はないが、それでも古本に親しむ向きがそれなりにいるのは喜ばしい▼ところがーコロニアの書店は寂しい。日本語を読める人が激減したためながら、古い移民の話によると昔は20軒を下らなかったと振り返る。「のんき堂」という古本屋もあったし、この店から30年も昔に購った本山荻舟の「飲食事典」は、ただ今現在も愛用している。あの頃は暮らしが厳しくとも、そんな楽しみもあったのだと懐かしい。 (遯)