ニッケイ新聞 2009年11月28日付け
もう師走も迫り夏が近い。サンパウロの日系レストランには早々と「冷し中華」が並び胡瓜とトマト、卵の薄焼きやハムの千切りが美しくー舌が騒ぐ。冷たい素麺も味が豊かながら子供のころによく食べた「冷麦」がいい。大きめな鉢に氷水を張り饂飩を入れて緑と赤の野菜を放ち、茹で卵を二つに切ったのを浮かべて色彩の美に惚れながら口に運ぶ楽しさーが格別なのである▼生まれ育ったところは電気もないような僻村だが山の仕事なので木挽きさんや職人さんらと食事を一緒にすることが多い。広いテーブルに20人を超すときもあり、「冷麦」も平たい桶に井戸の水をたっぷり張ってさながら「戦争」なのである。大相撲の力士も大勢で「ちゃんこ鍋」を囲むけれども、独りでポツンよりは賑やかな方がやはり素晴らしい▼海の幸も美味い。春告魚とも書く「さわら」の味噌漬けは好物だし、例年―春になると大きめなのを求め酒と味醂に味噌を混ぜたのに切り身を漬け2、3日置いてから盃を傾ける。このひとときは天国にいる喜びであり、ついついー手が杯洗に伸びる。それに、今年は十月の末に中央市場でカツオを見つけた。ちょっと早いなとは思ったが一本ぶら下げて帰り三枚に下ろし刺身にしたが、鮮度もよく口福に恵まれたのは愉快だった▼11月初めの朝市でも1本求めたが、その後は見かけない。カツオの盛漁期は真夏らしいから、あと少しで本番が来る。日本なら9月の戻り鰹の刺身が最高だが、生姜を下ろし葱の刻んだのを山にようにした厚切りの叩きやお茶漬けの味も捨て難い。すぐに炎暑の夏がやってくる。 (遯)