ニッケイ新聞 2009年12月1日付け
ジャンケンポン!お願いします――。支柱の上にゴムボールを置いて、バットで打つゲーム「ティーボール」がサントアンドレー市の小学校で大人気を集めている。試合開始前、先攻・後攻を決める手段は冒頭のようにジャンケンをし、日本式に礼をする。同競技は野球に似たスポーツだが、同校では男女、年齢に関係なく全校生徒で楽しむことができ、学業成績は前年比120パーセントのアップ、日常茶飯事だった喧嘩も激減するなど、思わぬ効果を上げている。
11月25日、サンパウロ州野球連盟の沢里栄志オリビオ会長ら、野球、ソフトボールの関係者と同市にある州立レベレンド・シモン・サーレン小学校を訪れ、元気いっぱいの「球児」たちの様子を取材した。
主に、同市ヴィーラ・パウマレス地区の貧しい生徒達が通う同小学校の正面にある同市立体育館。入口をくぐると、ネットで囲まれた室内運動場が現れた。
中では生徒達が声を揃えて応援し、ボールを打った生徒達は全速力で一塁ベースに向かって駆ける。
この日は今年最後の大会の決勝リーグが行われ、10チームが争っており、生徒達は打ったり走ったりと、真剣な表情で取り組んでいた。
ティーボールは10人から15人で行うスポーツで、ゴム製のボールとバットを使用する。ルールは人数や技術のレベルに応じて様々な種類があるが、同小学校では2チームが攻撃と守備に分かれ、攻撃側の全打者が打撃を完了した時点で攻守を交代する。静止した球を打つため、誰でも簡単に打つことができる。さらに、素手で行うことができるのでグローブや金属バットなどの高価な道具が不要。
同校で指導し、ティーボールの普及に努めているサンベルナルド・ド・カンポ野球クラブ(ジョゼ・ボアス会長)のクワハラ・アントニオ・クニオ監督によると、早稲田大学人間科学部教授で日本ティーボール協会の吉村正理事長と沢里会長の縁で、野球の底辺を拡大し力をつける目的で、ブラジルにティーボールが伝わった。
沢里会長も「土台を作らないと野球も始まらない」と語り、「彼らが育てば今度は我々サンパウロ州野球連盟の出番、その次はブラジル野球連盟の出番」と期待を寄せる。さらに、同小学校のチーム名に、「イビウーナ」や「スザノ」など、サンパウロ州にある野球チームの名前をつける。「自然とチームのある町を覚えられ、野球への興味も芽生える」と徹底ぶりをみせる。
同小学校では7歳から11歳までの生徒、約500人が学ぶ。ティーボールが始まったのは2008年9月から。1チーム10人で50チーム、全員が体育の時間に週2回、プレーをする。08年9~12月で200試合以上が開催されるほど盛況だ。
マルシア・カンポス校長によると、「集中力がつき、落着くようになった。また、チームプレーなので協力、話し合いをするようになり、喧嘩も減りました」とのこと。今では休み時間に集まって実施するなど人気スポーツになった。
ティーボールは子ども達に多くのものを教え、そしてチャンスを与える。沢里会長は「中には素質のある子もいる」。ブラジルでティーボールを実施しているのは、唯一ここだけだそうだ。