ニッケイ新聞 2009年12月5日付け
12月1日は「世界エイズデー」だった。80年代の初めにNYで発見されたときには「現代のペスト」と大騒ぎになり、人類滅亡の危機が叫ばれたりもした。これからすぐにブラジルにもHIV(ヒト免疫不全ウイルス)が侵入し新聞やTVは競って報道し、犠牲者が多く日本からの取材もあったし、あの当時―日本人移民の青年3人が泉下へ旅立ち「エイズ」の噂が流れた▼この「現代の奇病」については、同性愛による感染もあるし、母子感染や異性との性交渉による伝染も確認されている。この病気が厄介視されたのは、治療薬の開発が遅れたために患者の死亡が急増したからだが、最近は効果の高い薬品が普及してHIV感染者もかなり安定した生活を送っているのは喜ばしい▼WHOの発表によると、08年末の感染者は3340万人。しかも、新しい感染者は1996年の350万人をピークにして近年は減少している。008年現在で新規感染者は270万人、死亡は200万人となっている。これは治療によって犠牲者が減ったにも拘らずーHIV感染者が、1年間に70万人増えたことになる▼このようにエイズのパンデミック(世界的な大流行)の防止には成功したが、サハラ以南の国々におけるエイズ惨禍を見過ごしにはできない。インドや東南アジアでの悲劇もあるし、こうした地域での治療や予防策を強化しなくてはなるまい。南部アフリカで母子感染に泣く貧しい人々がテレビで放映されるけれども、この哀しみがなくなるような万全な対策を進めたい。いま、力を抜けばーエイズは間違いなく再び猛威を振るう。 (遯)