2009年12月5日付け
日伯関係を論じるよう招かれたのは名誉なことですが、それが難しい課題であることを実感しています。日本移民百周年の記念行事や、エネルギー分野の共同研究を進める両国の提携をうけ、楽観的な視点で述べたいところですが、そうもいきません。
ブラジルと諸外国との関係を考えるとき、多くのブラジル人は対日交流の滞りに不満に思っているのではないでしょうか。
世界経済危機の後、デフレから素早く立ち直りマクロ経済・政治を改善して成長する市場を有する一世紀の友好関係を築いてきたブラジルなどの新興国との交流を、日本が広げようと動くのは実に自然な流れです。
ブラジルには、高速鉄道構想、地デジ日伯方式採用、鉄鋼やセルロースといった半完成品の増産、都市インフラ整備といった日本の企業家の食指をそそりそうなプロジェクトが多数あります。しかしながら、大きな決定権を持つ両国の企業家、行政関係者の興味はあまり引いていないようです。
日本が「ジャパン・インコーポレーション(日本株式会社)」と呼ばれていた時代にみられたように、政府が経済や労働雇用の回復政策を打ち出す状況に戻りつつあり、世界は経済危機後に変化してきています。
今のところ、日本の民間部門がブラジルでの存在感を強めたり、競争力の高い日本製品を持ち込むといった積極的な動きはあまり見られないようです。ですが、韓国、中国といった他のアジア諸国は、日本企業に比べかなり精力的な出方をしています。
日本企業は、ブラジル民の見方や政府関係者に働きかける合法的なロビー活動することを避けているかのようです。繰り返しますが、世界は変ったのです。
ブラジル日本商工会議所会員らの企業家たちは以前同様に控えめな態度で、日本の政府機関と言えば活動予算を減らしつつあります。
ところが欧州諸国、アメリカ、アフリカ諸国、アラブ諸国、イスラエル、イランといった数え切れない国々では次々と政府関係者や企業家が来伯するなど、ブラジルでのビジネスチャンス獲得を目指した動きが見られます。日本企業の消極的な姿勢とは、対を成しているかのようです。
国内外の民間部門が独自のプロジェクトをブラジルの政府機関に提案するとき、役所はプロジェクトを良く練り組み立てるわけではなく、大まかな方向性をまとめるだけです。
この点において、ポ語という言葉の上でも、効果的なロビー活動ができる現地協力者と共に活動するべきではないかと思います。
日本企業は外国で活動していることを重要視せずに、日本国内にいるかのような展開を続けているように見えます。支援してくれる現地協力者の助けを借りず、自身の組織内だけで活動する傾向があります。
日本企業はすでに、経済が常に変化するような新興国の間で、迅速な決断が不可欠であることを学んでいるはずです。
ブラジルの国内市場向けサービスなどには、日本企業が競合できる小規模投資で、リスクの低い多くのチャンスが溢れています。
世界は国際化し続け、保護貿易主義を取るかどうかも大きく左右するでしょう。
日本企業は、移民が獲得し引き継いできた「誠実さ」と「良質」という日本への評価に、優位性を見出してきたのではないでしょうか。
ブラジル内市場の競争は激しさを増すばかりです。経済危機の中、過去に日本人が行ってきたよう一生懸命に働かなければなりません。
以前の日本人はもっと積極的でした。今日まで維持されてきた日伯交流の大部分は、そんな彼らの努力の賜物でしょう。
重要なことは、セラード農業の開発や、地デジ日伯方式採用で起きているように、その成果が他国の利益に消えることのないよう、注意を向けることではないでしょうか。
横田パウロ(よこた・パウロ)
エコノミスト。ブラジル中央銀行理事、USP経済学部教授、サンタクルース病院理事長などを歴任。現在はサンタクルース病院名誉理事長、イデイアス・コンスルトリア・コンサルティング会社パートナー。71歳