ニッケイ新聞 2010年1月7日付け
赤道が通っているアマパー州の州都マカパーに昨年9月に行ったときのこと。ちょうど〃秋分〃だったこともあり、赤道記念碑前には多くの市民が集まっていた。日没の直前、カウントダウンが始まった▼周囲の雰囲気に気圧されたのか、女の子が心配そうに「ねえ…目は潰れないよね」と母親に小声で尋ねるのを聞いて噴き出したのだが、その後、現地の日本人と話していると、「南米だから秋分ではなく、春分でしょう」と質され、頬に残照を感じた▼ブラジルで記者として働き始めたころ、記事のなかに「温かい南風が…」と書いたところ、読者からお叱りを受けたことを思い出した。なるほど確かにそうだ。窓の向きも南より北向きがよろしい。それはそうと、イソップ童話「北風と太陽」は、ブラジルでどう訳され、読まれるのだろうか▼正月休暇で訪れたアルゼンチンでも実感した。首都はブエノスアイレスを南に約400キロ。港町マル・デル・プラタで新年を迎えたのだが、大晦日の夜があまりに寒いため、手土産に持っていった日本酒を燗しようとさえ思った▼東西でもー。不思議だった「極東」という言葉もアメリカや欧州の地図で納得、確かに日出ずる国は東の果てである。戦前、宮城(きゅうじょう)より北の地方では、南に向いて「東方遥拝」したらしいが、ブラジルの勝ち組はやはり東に向かって頭を垂れていたのだろう▼そんなことを新年早々つれづれに考えていると、漫画『天才バカボン』のテーマ曲「西から昇ったお日様が東~へ沈~む~♪ それでいいのだ!」と、作家赤塚不二夫氏(08年死去)の歌声が西方から聞こえてきた。 (剛)