ニッケイ新聞 2010年1月9日付け
英誌「エコノミスト」は7日、ルーラ大統領が軍部との間で「過ぎたことは、終わったこと」とする特赦法の解釈を巡って疎通の欠如が生じ、対処に深慮を求められていると報道したことを8日付けジアリオ・ド・コメルシオ紙が報じた。
論争の焦点となっているのは軍政時代、拷問で殺害された政治犯の遺族に対する保障が風化しようとしていること。これまで再々、真相究明の話はあったが立ち消えとなり、時効が近付いている。これに対し特赦法が適用されるかだ。
パウロ・ヴァヌッシ人権相が「真相究明委員会」の設立を立案したことで、人権擁護の立場から事件の洗い直しを行うというもの。同相は、軍政時代の機密文書を全面公開する意向だ。
ジョビン国防相は、機密文書の肝心な部分は焼却または隠滅され、立件は困難と述べた。英誌の見方では、ブラジルの軍部はアルゼンチンやチリの軍部ほど残忍無比ではなかったという。
それでも400人は、消息不明または死亡している。拷問を受けた人たちは、数千人に達する。
「真相究明委員会」の立案が明るみに出たことで、三軍の高官がジョビン国防相も含めて抗議の辞任を表明した。同委員会の設立は大統領によって保留とされ、検討するだけに留まった。
英誌はルーラ大統領が、軍部に昇給と経費増額を与え、空軍の戦闘機更新や原潜購入で軍のご機嫌をとったというのだ。軍部は返礼として、最高裁が決めた北部国境地帯の先住民保護区の拡大を看過したという。
さらに英誌は、現政権の高官やPT(労働者党)党員多数が元テロリストで現職にあると報道。拷問を受けた者や、同志を裏切り拷問を免れた者もいる。「真相究明委員会」の設立には、テロリストの犯罪も同時に白日にさらされると、多くの軍人が賛意を表すという。
次期大統領選へ出馬が予想され、ルーラ大統領が推薦するロウセフ官房長官は、テロリスト時代の犯罪歴を明らかにすれば、暗黒街のボスも顔負けの前歴を国民が知ることになるからよいと英誌は見ている。