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人権擁護国家計画=行方不明者の真相究明は=拷問審理が焦点に=国防相対人権相の対決=再燃する軍政の負の遺産

ニッケイ新聞 2010年1月12日付け

 政府は10日、草案中の「人権擁護国家計画」から、ジョビン国防相の提言により政治的抑圧者や被抑圧者の表現を避けることを考慮と11日付けフォーリャ紙が報じた。草案は軍政時代の人権侵害に留め、元軍人や元ゲリラの行為を特定しないという。これはヴァヌッシ人権相が、ゲリラの行為も軍の行為と同様に審理せよという要求に、抗議して辞意を表明したことに対する措置と見られる。軍政時代の拷問に関する国会審議の可否は、これで遠のいたようだ。

 波紋を呼んだルーラ政権第3の目玉政策「人権擁護国家計画521条」は、国防相始め3軍の長、農業団体、宗教界、マスコミ、野党などから批判を受けた。修正案は拷問責任者やテロリストに触れず、古傷を抉ることもなく、言葉のアヤで決着するようだ。
 しかし、テロリストは軍政時代、既に受刑している。然るに拷問や強姦、輪姦、残虐行為の責任者は、何の咎めも受けず野放しであると、犠牲者の遺族は訴えた。
 国防相は、被抑圧者によって抑圧者を裁く一方的な真相究明委員会の設立に抗議。人権相は、国家権力の後ろ盾がある軍部と、体を張って行動したテロとを別物視し、同列審理を拒み国会審議に委ねるとした。
 人権擁護国家計画は、大統領令として制定されるもので、行政府によって草案委員が結成された。ルーラ大統領は11日、年初の休暇から復帰し、国防相を指揮官とする一派とヴァヌッシ人権相を旗印とする軍政犠牲者の遺族代表との対決を、裁くことになる。
 国防相も人権相も、辞意を表明し首を賭けた闘争だ。しかも今年は、10月に大統領選が控えている。結果はロウセフ票に影響する。出馬が予想されるロウセフ候補は元左派活動家、拷問を受けた被害者だ。
 ヴァヌッシ人権相は、消息不明者と遺体の隠蔽場所で徹底究明を求める考えのようだ。それなくして、ブラジルは文明国家といえないし、歴史は一時代を終えることができないという。
 人権相には、全伯弁護士協会(OAB)や拷問責任者の特赦反対同盟など各種の多数団体が支援をしている。フィゲレイド元大統領が1979年に制定した喧嘩両成敗の特赦令見直しが、社会活動家から求められている。