ニッケイ新聞 2010年1月12日付け
ブラジル日本移民百周年史日本語編纂委員長(森幸一委員長)は8日午後1時から、記者会見を開き、昨年12月に出版予定だった同史第1巻「農業編」(田中規子調整役)の遅延理由を説明、今年7月に刊行することを発表した。日程上、5月には印刷作業に入らないといけないが、現時点で「3分の1の原稿は執筆者の名前が変わるくらい手を入れなければならない」とし、9項の執筆を担当する田中調整役の担当分も「下書きの状況」だという。このような状態で、移民史そのものともいえる日系100年の農業史がどのように編まれるのだろうか――。
会見には、松尾治百周年協会執行委員長(途中退席)、森委員長、田中調整役(農業編)、栗原猛(編纂副委員長)が出席した。
同史編纂は、別巻「目で見るブラジル日本移民の100年」が08年に発行されており、『ブラジル近代農業史における日系農業』『生活と文化編』『産業史・社会史』『生活と文化編』『地方・地域史』『ブラジル日本移民百年史(総論)』が2012年までに順次、発行される予定。
国際協力機構(JICA)が同委員会に執筆調査費(08年度予算)として支援した約半分にあたる9万5千レアルが、第1巻『農業編』に充てられた。年に1冊を出版するという目標で、09年12月の出版を発表していた。
しかし、コロニアに説明なく、今年3月、そして今回の7月に延期されており、調整・日程管理能力や責任感のなさが指摘されている。
この理由を田中調整役は、「原稿を依頼する人がなかなか見つからなかった」とし、すでに提出されている原稿の3分の1が「使用不可能な状態」。大幅に加筆・訂正する必要があるため、執筆者の名前=表参照=を入れるか検討中という状況だという。
各執筆者の文体も、「ですます調・である調ですら揃っておらず、他委員と手直し中」というお粗末なものだ。
そのような執筆陣を選んだこと自体の責任を問う記者に、「私たちは一生懸命やっています。普段文章を書くことがない人も多いので仕方ない面もある」と語気を強める田中調整役だが、自身が担当する9項(全33項)も「まだ下書きの段階」であることを明らかにした。
一項あたり2千レアルの執筆・取材費がすでに13人に支払われており、12月17日付けでJICAの緒方貞子総裁宛てに「遅延報告書」を送っているが、未だ返答はないという。
森委員長は、「日本移民80年史の時もそうだったが、日本語で原稿を書く人材の不足は否めない」とした上で、自身が調整役を務める『生活と社会史』に関しては、「9割の原稿依頼は済んでおり、4、5月には原稿ができる予定」と年末刊行に自信を見せた。
なお、『産業史・社会史』は2011年上半期に刊行できるとした。