ニッケイ新聞 2010年1月15日付け
ルーラ大統領は13日、ジョビン国防相と軍の要求を容れ「人権擁護国家計画」の条文から「政治的抑圧」の言葉を削除し、人権侵害の見直しという内容に修正したことを14日付けフォーリャ紙が報じた。条文修正により、軍政時代の人権審理から誰が誰を侵害したという表現を抹消した。その他妊娠中絶や同性愛者の婚姻などの部分は、原文通り上程。大統領は国防相や軍部、人権相の辞意表明を未然に防いだが、PT(労働者党)内では辞意表明を「甘えの構造」だと皮肉っている。
ルーラ大統領の置き土産となる「人権擁護国家計画」は、大統領令として15日、官報で公布される。閣僚間で設立準備が進んでいた「真相究明委員会」は、骨抜きにされたようだ。
軍政時代の政治的抑圧は砲口が寄せられ、月並みの人権審理になったとフォーリャ紙が報じた。同人権計画は宗教界や報道界、農業生産者、同性愛者などを巻き込んだため、肝心の拷問から焦点が外された。
これで軍部は、補償を訴える犠牲者遺族の矛先をかわした。「政治的抑圧」の一語を抹消したことで、「真相究明委員会」が目指した軍当局の拷問解明は、巷間の犯罪並に審理されるようだ。
軍と大統領府のわだかまりは12日夜、ジョビン国防相とヴァヌッシ人権相の間で話合われた。13日朝、大統領に結論を報告。両相の会合は、単なる言葉の表現で決着したようだ。
政治家タイプではない人権相は、まかれた。同令の大部分は、自動的に適用される法令ではない。国防相は、真相究明委員会が一方的に拷問関与者を裁き、テロリストの犯罪を除外する姿勢を糾弾しようとした。
修正された新大統領令は、人権侵害の一般論であり、軍政の拷問追求ではない。ジョビン国防相によれば、カステロ・ブランコ元大統領などが軍の殿堂入りした現在、拷問を引き出すと世間の笑いものになるという。
現実としてルーラ政権の「人権擁護国家計画」は画餅であって、国防相が人権相をなだめた茶番劇という関係者の見方だ。犠牲者遺族の不満に、フタをした国防相の政治的配慮だというのだ。
この寸劇は2つのことを教えたとフォーリャ紙が報じた。1は真相究明委員会が調査結果を議会へ上程しても、審議は長期にわたり風化する。2は最高裁長官を務めたジョビン国防相が、豊かな法律知識で丸める。今のところ、誰が大統領になっても、軍を説得できる者はいないようだ。