ニッケイ新聞 2010年1月27日付け
アルゼンチンの邦字紙「らぷらた報知」が「カブトムシをめぐる汚いビジネス戦争」と題し、同国で日本人が巻き込まれたカブトムシ取引事件の裏側を追った記事を掲載している。3回に分けて掲載する。(編集部)
【らぷらた報知】本紙09年11月26日号4面で、「アルゼンチン 九州の男性が冤罪 日本弁護士団支援で無罪に」という毎日新聞の記事を紹介した。税関法違反罪で起訴された日本人男性(43歳)が約1年8ヵ月も拘禁状態を強いられた挙句、去る10月に無罪判決を受けたという内容だった。
この事件は08年2月15日、エセイサ空港からゾウカブトムシなど約40匹を日本へ持ち出そうとしたことがきっかけになった。その際、匿名情報をもとにして麻薬捜査官から調べられた。麻薬は見つからなかったが、昆虫持ち出しに必要なSENASA(国立衛生局)の証明書が偽造だったことが分かった。
逮捕されて約2週間後、起訴されている。仮釈放の身分だったがブエノスアイレス市内から出ることを禁止され、2週間に一度裁判所に出頭する条件がつけられた。
裁判の開始が決まらないまま月日が過ぎるが、日本にいる妻を通して、海外のヘロイン密輸容疑で逮捕された日本人を支援した経験を持つ弁護士に相談、その結果無実の罪の可能性があるとして無報酬の弁護団が組織された。
現地で依頼した私選弁護士が解任され、新たにアルゼンチン人国選弁護士がついた。日本から参加した弁護団と打ち合わせ、10月7日の初公判で現地の業者と日本人男性M・Tとのカブトムシ商談の初めからのメール交信記録など証拠を示し、証明書が「偽造であることを知らなかった」と主張した。
さらに、同月19日の公判では検事側もその経緯の事実を認めたことから、無罪の判決が下った。結局、無実の罪に泣かされたことになる。この裁判には、らぷらた報知の比嘉アントニオ社長も通訳者として立ち会っている。
本来なら、この事件はここで終わってしまうだけの筋書だが、推理小説にも似て意外な人物が絡みながらこの事件は展開していた。
アメリカの19世紀の短編小説家エドガー・アラン・ポーに、「黄金虫」という黄金色をした珍しい甲虫をテーマにした暗号解読の有名な推理小説がある。もちろん、このアルゼンチンでのカブトムシをめぐる事件のカラクリはべつに上等でもなんでもない。では、どうして「カブトムシ」がこの事件の中心にあるのか。端的に言って、日本における競走の激しいカブトムシのビジネスの世界につながっている。