ニッケイ新聞 2010年1月29日付け
政府は26日、企業の事業年度純益の5%を従業員に配当として支給することを義務付ける法案を草案中であることを明らかにしたと27日付けエスタード紙が報じた。同案はポルト・アレグレで開催中の世界社会フォーラムで提案されたものだが、政府内で物議をかもした。産業界は選挙の年であるため、与党候補の当選につながるものであれば、何でもありだと批判した。経済評論家のミング氏は、正規雇用の労働者には良いが、失業者や非正規雇用労働者には何ら恩恵がない悪法であると批評した。
企業の純益分与に従業員が参加できることは、就労の励みと所得格差の是正でよいが、法令化され義務として強制されるなら、産業の悲劇になるとミング氏はいう。
ジェンロ法相は27日、原案として存在し、労働省で検討中であることを認めた。同相は26日、決定事項ではないといったのに27日には、選挙では有利な効果よりも不利な結果が大きいと述べた。選挙後には、情勢変化があるようだ。
政府としては、大統領選挙への影響のみを考慮し、産業への影響も労働者の生活改善も視野にない。いかにして、ロウセフ候補の票数を伸ばすことしか頭にない。
企業の利益配当についてはパジアノット元労働相の時代、専門家に連邦令と司法上の問題を検討させたことがある。これは微妙な問題であるが、反論するなら次ぎのような疑問がある。
第1は、従業員採用による企業負担が増えること。ブラジルの輸出産品は、高い社会保障拠出金がコスト高の原因になっている。省庁は、ブラジル・コストと製品価格、雇用の関係、改善をどう考えているのか。
生産部門に負担となる新しい法令が出るなら、ブラジル産品は内外市場で中国製品やアジア製品との競争に苦戦させられる。国際商戦で負け、益々生産規模を縮小するなら雇用も萎縮。
第2は企業の余裕資金が従業員に分与義務となるなら、そんな法律がない国との比較で、投資家はどう判断するか。長期的に見て経済的効果と雇用へのインパクトは、どう変化するか。
企業労働者と失業者の所得格差拡大を、どう捉えているか。ブラジルには失業者の他に、莫大な数の非正規雇用労働者がいる。労組に非加入の労働者も多数いる。
同令が利益分与を義務付けるなら、2つの悲劇を生む。同令執行の結果、企業に行政官の監査が入る。企業経営に政府が関与し、共営のようなシステムになる。もう1つは、資本家と労働者が同格扱いになり、企業経営が困難になる。