ニッケイ新聞 2010年2月6日付け
4日に着任したトーマス・シャノン駐伯米大使は、ルーラ大統領に親書提出後、「ブラジルがイランと直接対話をできるチャンネルを持っていることは好都合なこと。しかし、ブラジルの外交努力が実をむすぶかは疑問だ」と述べたことを5日付けフォーリャ紙が報じた。同大使は、イランがウラン濃縮問題を含め、国際社会との対話に本気で取り組むかが要であるとの見解を呈した。現時点までの経緯では、それはないと同大使は見ている。外交とはよい成果が望めるかを見極めた上で、踏み切るものという。
同米大使は「外交交渉で大切なことは、解決を求めるのに交渉の方法と成果を検討すること。それが目標通りの結果につながるかが、交渉の基本。米国を含め各国は、自国の外交能力を交渉方法ではなく交渉結果で評価する。現在は誰もが、イランとの接触を求めて試行錯誤中だ」と発言。
ちみもうりょうな国とされるイランに対し、ブラジル外交は、天衣無縫に振舞っていると同大使はいう。ブラジルは国家主権を持つ国で、誰にも憚ることがないとした上で、ブラジルの利益のための選択で、米国に「お伺い」をたてる必要もないという。
対イ関係について、国連安保理非常任理事国でもあるブラジルは、国際社会と協調的な行動をとっていると同大使は判断。ワシントンはブラジルがイランとの窓口を持つ数少ない国の一つと認識しているが、世界はイランの核開発計画と人権対処が不透明であることを懸念しており、イランの出方次第で、安保理が制裁処置をとる可能性も否定していない。
もう一つのイランの窓口、ベネズエラはイランと同様に複雑難解な国と同大使は位置付けした。チャベス大統領への米政府の警告は、握り潰された。しかし、ベネズエラ国民は米政府の警告に耳を傾けると見ている。
ホンジュラス問題で米政府は、3月のメキシコでの中南米首脳会議参加国がローボ新大統領を承認することを希望。セラヤ前大統領追放をクーデターと位置づけることでは同調した伯米両政府は、セラヤ不在の選挙では意見を異にしていた。
ハイチでは、米軍が空港管理と制空権を独占したことで、伯米間に摩擦を引き起こした。震災直後を非常事態と理解した伯米両軍に、見解の相違があったという。米軍は世界の非常事態で多くの舞台を踏んでおり、独占は説明無用と米軍は思っているというのだ。
軍政が敷かれた1965年以後、伯米両軍は合同軍事作戦を展開したことがない。ハイチの国連平和部隊を指揮したブラジル軍は、飛び入りの米軍救援部隊に面食らったと見ている。オバマ大統領はブラジルを地政学的見方で分析し、見解の相違は取るに足らぬこととしているようだ。