ニッケイ新聞 2010年2月10日付け
仏紙ル・モンドは8日、国連安保理が目論むイラン制裁の枠組みを、ブラジルが拒否したことでEU代表団が非難と報じことを9日付けエスタード紙が報道した。イランが7日、自国内でのウラン濃縮へ翻意したことで、米仏両国は新たな制裁案を提議。フランスは、安保理が共同歩調で制裁に踏み切ることを望んだ。安保理が満場一致でまとまれば、常任理事国で難物の中国へも説得力になると見ていた。ブラジルは同案拒否を表明、仲介役として話し合いの労をとる用意があると声明を発表した。
世界情勢は、微妙な局面へ至ったようだ。イランが一度は、国外でのウラン濃縮を容認したが、7日国内での濃縮へ翻意。米仏両国は新たなイラン制裁を提議し、ブラジルが阻止した。
イランへの新たな制裁は、中東版ハル・ノート(太平洋戦争直前に米国が日本に出した最後通牒)といえる。金融危機の出口が見えない欧米諸国は、格好の出口をイランで作ろうとしていた。そこへブラジルの〃待った〃が掛かった。
国連安保理は、中国の拒否権発動を防ぐため、中国を除く全理事国を満場一致で押さえ込んできた。そこへブラジルという新たな小石が、靴の中へ入り込んできた。
国連安保理は現在、5常任理事国と10非常任理事国からなる。決議は15票のうち9票以上の賛成を要する。棄権は拒否と見なされない。ブラジル他、中国やロシア、ナイジェリア、トルコ、レバノンも対話継続を求める中、イラン制裁可決は殆ど望み薄といえる。
ブラジルは丁度、イスラム圏と欧米圏の中間派といえる。ブラジルの態度が、国連安保理の流れを決める傾向にある。またイランのウラン濃縮問題に、ブラジルはまだ関心を持っている。
これからは米英仏の3カ国が、国際政治の鍵を握るブラジルに圧力をかけてくると予想される。欧米とイラン間の対話は、制限された不自由なチャンネルしかない。それで欧米は、ブラジルに頼ることになる。
イランのウラン濃縮問題で、ブラジルは国連安保理5カ国とドイツに対し、重要な役割を負うことになる。アモリン外相はフランスのピエル・レルチェEU担当相に「EUの強硬姿勢は、自らイランとの対話を拒み、仲介の労を損なうものだ」と厳重警告を発した。
ルーラ大統領が5月、イランを公式訪問するとの話もあり、2国間外交は戦略関係がさらに強化されると見られる。