2010年2月13日付け
私事で恐縮だが、今年の年賀状にはオリンピック招致が決まった瞬間のコパカバーナの写真を使った。飛び交う紙吹雪、喜びに沸く若者たち――。昨今のブラジルの勢いを象徴するような光景で、日本の知人からは「閉塞感漂う日本とは全く違いますね」、といった返事を頂いた。
人口は減少、将来不安で消費は萎縮し、明るい展望が描けない日本。そんな日本の経済界が新興国に視線を向けはじめているのは当然の流れだ。ブラジルで生活する者としては、「オリンピックより先にやることがあるだろう」という茶々も入れたくなるが、オリンピック招致の宣伝効果は絶大で、昨年10月を境に世界中のマスコミでブラジルが報道される機会は確実に増えている。私自身も東京やニューヨークの編集部門から、お声がかかることが多くなった。
ただ気になるのが、日本からブラジルへの関心の高まりが金融投資先行で進んでいる印象がぬぐえないことだ。ボベスパ指数はオリンピック招致後、年末までの3ヶ月で13%上昇した。折しも中東ドバイの危機が表面化。一方で、それまで新興国の中でもやや地味な存在だったブラジルはニュース性や安定感、安心感もあって、お金を託す先として相対的に魅力を増した。自分が社内から受ける電話も、そうした個人・機関投資家の「熱」を感じた編集部門からのものが多かった。
どんな関心であれ、忘れ去られるよりはよいだろう。だが金融投資は引くのも早い。問題は日本からブラジルに向けられる目が、実業の部分にまで広がるかどうかだ。なかでも資源の調達先としてではなく、ブラジル市場に入り込み、どれだけ実(じつ)を取れるかは日本企業が世界的な競争を生き残っていくうえで重要だろう。
どんな企業も全世界で全方位作戦を展開できるだけの人的・資金的な資源は持ち合わせていない。そう考えると南米はやはり、距離的にも心理的にも遠い。それに加え、南米の地域全体としては、今ひとつ市場としての力強さを感じにくいことも、日本企業として力が入りきらない背景にあるように思う。
中南米全域を担当して感じるのは、ブラジルの経済的なポテンシャルの突出ぶりだ。人口の多さだけではなく、社会・経済の安定感も他国とは差がある。逆に、周辺のいくつかの国は資源国であったり、成熟した文化があったりする一方で、政策によって経済が振り回されている印象がぬぐえない。チリは経済・社会的に安定しており、日本とはEPA(経済連携協定)を結ぶ仲だが、市場の大きさという意味では限界がある。ペルーも安定した経済成長を見せており、EPA交渉の進展が持たれるが、社会・政治的な安定を見極めるにはあと5年はかかるだろう。
ブラジルにいれば、この国だけでも広さ、市場としての奥深さは感じることができるのだが、地球の反対側からの視線を集めるには、もう少し面の広がりも必要かもしれない。
檀上誠(だんじょう・まこと)
千葉県出身。日本経済新聞社米州編集総局サンパウロ支局長。2007年9月着任。38歳。