ニッケイ新聞 2010年3月2日付け
あの恐怖の地震から50日近くが過ぎたが、ハイチの混乱は今も続く。日本の自衛隊も救援に出動し復興に向け全力をあげ、各国からの支援も地震で崩れた瓦礫と戦っている。首都ボルトープランスでは25万戸の住宅が倒壊し、150万人がテントに避難し摂氏40度の高温に耐えながら生きている。衛生の状態も最悪であり、トイレ不足も深刻である▼WHOは少なくとも2万5千個が必要としているが、これの実現も難しい。それでも、ぽつり、ぽつりと新しいのが目につくようになったけれども、とにかく絶対数が足りない。住民たちは、プラスチックの袋に排泄物を入れ崩れ落ちた建物へ捨てるのだそうだ。従って臭気もひどいらしく、下痢や伝染病の発生を恐れる専門家が多い▼ブラジルに渡った日本人移民の先輩たちもトイレには大いに泣かされた。とりわけ若い女性にとっては、死にたいような苦痛だったろうし、お婆ちゃんから、配耕地でのそんな昔話をよく耳にした。笠戸丸よりも先に渡伯した鈴木南樹は、大農場に1年住み込み農作業に従事し、その著書にカマラーダの家にトイレのないのを記しているが、こんな話も移民哀史の一つと見てもいいのではないか▼死者の数もはっきりしない。23万人の説が有力ながら30万人の可能性も指摘されている。プレバル大統領の発言なので根拠はあるのだろうが、もしこうなれば中国・唐山地震を上回り世界最大の被害になり、復興も容易ではない。ともかく、こうした悲劇の情報が錯綜していて判断に迷うけれども、トイレの問題や身近なところから解決の道を急いで欲しい。(遯)