ニッケイ新聞 2010年3月19日付け
中東を訪問中のルーラ大統領は17日、イスラエル政府と米政府の間で生じた緊張を、中東和平交渉への〝突き〟だと見ていることを18日付けフォーリャ紙が報じた。周到に準備された手品のようなもので、首尾が良ければ成功と大統領は見ている。一方、パレスチナ暫定自治政府(PA)のアッバス議長からは、PA結束に向けたルーラ大統領仲介の労提供を断られた。それよりハマスへ資金援助を行うイランを、けん制するよう要請された。
5日目に入るルーラ大統領の中東訪問は当初、懐疑的な雰囲気で迎えられた。しかし、到着時より帰国時は表情が明るいことで、ブラジル外交が地政学的に受け入れられたと理解している。
今回の中東訪問でブラジル政府が感じたことは、イランが同地域で影響力を伸ばしたこと。ヒズボラを通じて、レバノンでの政治運動や軍事活動を展開している。さらにハマスを使ってガザ地区をも狙っている。
アッバス議長は「ハマスは、イランから乳離れすべきだ」と述べた。イスラエルのペレス大統領は「ガザは、イランの支配下にある」と訴えた。この両者の意見には、イラン外交に対し、共通する見方がある。
ブラジルは、イランがイスラエル・パレスチナ紛争に油を注いでいると見ている。イスラエルのハーレツ紙は17日、パレスチナ市民の生活が脅かされているとして、イスラエルを人種差別国家に仕立てるのが、イランやハマスの思うツボであると報じた。
ルーラ大統領は、中東における悪循環を断ち切るべき時が来たと声明を発表した。それには米政府の圧力によって、パレスチナ国家の誕生をイスラエルに認めさせること。そしてイランの介在を排除すること。
大統領の考えが正しければ、次は米国のネタニヤフ政権を押さえる力が課題になる。これまでの経緯から、答えは否だ。イ議会のリブリン議長は「米政府がネタニヤフ失脚で涙を流すことはない」と発言、米国に頼らない覚悟を見せた。
米国の手品が失敗するなら、パレスチナは黙っていないと、ルーラ大統領は見ている。イスラエルとパレスチナの間で350キロにわたって建設された隔離壁は、国際社会の非難を浴びる。
イスラエル政府が「希望の開拓」と呼ぶ入植地建設は、欺瞞の構造が暴かれるとルーラ大統領が糾弾。アッバス議長からは断られたが、欧米からテロ呼ばわりされるハマスの合流説得は、中東和平の大前提だとルーラ大統領は見ている。