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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2010年3月26日付け

 サッカー好きなら、サントスFCのロビーニョ選手の「ペダラーダ」が見事に決まったシーンを見たら快哉を叫ぶだろう。これは、走りながら、転がるボールを自転車のペダルをこぐようにまたいで、左右どちらに行くか相手の目をくらませる技だ。あれを見るたびに、ブラジル人性の特徴の一つ「マリシア」(ずる賢さ)を思い起こす▼例えば、言うこととやることがまったく食い違う人がいる。最近、あの言い草は、その場しのぎの意見というペダラーダだと思うようになった。言っている本人すら本当にそう思っているフシがあるぐらいに迫真の演技するから、他人からすれば信じるのもムリもない▼サッカーの守備の達人は、目くらましのフェイントにはいっさい目もくれず、ボールしか見ないという話を聞いて、なるほどと思った。つまり、どんなに上手なペダラーダ(言い草)でも、実際のボール(行動)は一つしかない▼言っていることは聞き流し、相手の態度や行動だけを見つめて真意を見極めるのが、ブラジル流なのだと思い当たった。マリシアは当地において、むしろ奨励される美技である。全てにおいて自己責任のこの社会では、マリシア的であれば人をだます〃権利〃すら認められているのかもしれない。だから、相手のマリシアを見極めて防御することも、人生に必要な技術なのだろう▼ズルズルと先延ばしすることを「エンホーラする」というが、これもペダラーダの一種だ。ボールがどこにあるのかを素早く見極め、目を離さない。この国で生きていく上で、職場や男女関係も含めてあらゆる局面で重要なテクニックかもしれない。(深)