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日伯論談=テーマ「日伯経済交流」=第44回=佐々木光=日本貿易振興機構(ジェトロ)サンパウロ・センター所長=アジア型に移行する日本企業の対伯投資

2010年4月2日付け

▼点の投資が中心

 伯経済が今日本で注目されているのは言うまでもない。ジェトロの貿易・投資相談の国別ランキングでも、伯は08年8位、09年9位、と2年連続ベスト10にランクインしている。米国、アジア以外の国が10位以内に入るのは初めてのこと。こうした動きに伴って日本企業の対伯投資件数も増加している。
 現在伯には約310社の日本企業が進出しているが、製造、販社合計で5年前との比較では少なくとも50社程度は増加している。しかし、その増加スピードはRICs諸国に比べれば鈍い。
 例えば、インドには現在630社、ロシアには200社の日本企業が存在するが、いずれも5年前との比較では倍増している。中国には既に2万5千社が存在するが、やはり現在でも安定的に拡大している(いずれもジェトロ各国事務所調べ)。
 こうした伯と他新興国との格差は、日本との距離からくるハンディにもよるが、日本企業が単独市場を目指した企業進出には積極的ではない、といった要素も大きく影響している。日本企業が対アジア投資を検討する際、中国プラス1あるいはASEANプラス1といったように近隣複数国への投資パッケージをベースにしている場合が多い。部品や完成品を相互に供給し合いながらリスク分散し、国内市場で販売すると同時により容易な拠点から第3国へ輸出する、といったようなパターンだ。
 これに対し、対伯投資は伯市場に焦点を絞った点の投資が多い。例外としては、一部自動車および自動車部品メーカーがメルコスルおよび墨(メキシコ)市場を前提とした投資を展開、アジア・パターンを実現しているが、他にはあまり例がない。
 アルゼンチン、ベネズエラは国としての安定感に欠ける。チリには食品産業以外周辺産業がない、ペルー、コロンビアは最近でこそ注目されるがプラス1投資対象国としては未成熟の感が否めない。となると、対伯投資のみとなるが、日本からみれば、決して製造コストの安くない国でそこで売るためだけに拠点を作るのか、という点がネックとなる。

▼BOP、広域、中小企業

 しかし、日本企業の投資パターンは確実に変化しつつある。ひとつは、所謂BOP(Base of the Economic Pyramid=底辺層)ビジネスへの対応だ。欧州勢や韓国が得意とするボリュームゾーンに合わせて製品レベルを微妙に落とす、従来日本勢が最も不得手とした戦略。余談だが韓国企業に、「中南米ほど楽な市場はない。日本がいないからだ」、と言わしめるのはこの辺の状況だ。
 ただ、日本企業でも、オートバイ、加工食品、家庭用医薬品関連企業などはBOP対応で成功しており、これに注目する投資予備軍が次第に増えつつある。家電、菓子、化粧品、医薬品、洗剤、流通、レストラン、キャラクター、ファスト・ファッション分野での投資検討案件にこの傾向が顕著だ。
 観点は異なるが、重いものから軽いものへ、あるいは、製造分野からサービス業へ、といった日本企業の進出パターンの変化はかつて中国をはじめとするアジアにもみられたもので、それだけ日本の投資対象国として伯が成熟しつつあることを物語っている。
 次に、自動車関連分野を中心に中南米広域取引を前提とした投資検討案件が増加しつつある点だ。
 2007年に発効した墨・伯自動車協定(800品目が関税免除)には、完成車、部品のみならず関連電気機器や建設機械なども含まれるため、墨・伯両国拠点間での相互供給が可能。実際にこのスキームの利用を検討する企業が増えている。
 現在、同枠組内の輸出入金額では伯側の輸入超過だが、これには、同一製品の場合、レアル高もあって墨側製造コストの方が輸送コストを勘案しても安く上がる、といった伯側には痛し痒しの問題も孕んでいる。マナウスで部品を製造するよりも墨から調達、といった選択肢もあり得る。墨・メルコスルFTAの可能性も囁かれるなか、こうした動きは見逃せない。
 もうひとつ、メルコスル市場を前提とした場合、伯からフリー・ゾーンのあるウルグアイへのプラスワン投資を目指す動きも出てきている。人口規模が約350万人と小さいこともあって同国には日本企業は数社しか進出していないが、メルコスル市場等で販売実績を上げる企業も出てきていることなどから、在伯日本企業からの問い合わせが少なくない。
 アルゼンチンの状況が不透明な中、新たなプラスワン投資候補国となっても不思議ではない。墨やウルグアイがらみの動きはアジアでの広域投資とは規模が異なるが、点から線あるいは面への投資戦略として実現されつつある。
 第3の変化は、投資企業が中小企業へと裾野が広がっていること。機械機器、精密機器、計測機器、建設資材、省エネ・環境機器等の分野だが、独自の技術をもつオンリーワン企業が多い。
 B2CやBOP対象商品のように競合相手が多くないことも特徴点だ。中小企業の場合、いきなり製造拠点設立という訳にはいかないが、いずれも中国、アジアでの経験を生かして伯進出を検討している企業。ただ、コストが高い伯での販売はアジアでのビジネス・モデルが通用しない。事業を軌道に乗せるまでには覚悟が必要だろう。
 中国、インド両国にASEAN10を加えるとGDP規模は700兆円で人口も26億人。日本企業にとってアジア市場は魅力的だ。
 ただ、中南米市場も、33カ国全体の経済規模は330兆円、人口5億5千万人と決して小さくない。むしろ、1人当たりのGDPではアジアの約2700ドルに比べて中南米は同6千ドルと購買力では負けてはいない。
 アジアにみられる日本企業の多様な投資パターンが、伯を中心とした中南米で本格的に展開される日も遠くないと感じている。

佐々木光(ささき こう)

 1977年旧日本貿易振興会入会。スペイン研修の後、東京本部、大阪本部、旧通産省貿易保険課、マドリード事務所、コスタリカ・サンホセ事務所に勤務。08年2月から現職