ニッケイ新聞 2010年4月14日付け
サンパウロ州教育局では、昨年から富山県に対し多文化共生推進研修員の派遣を開始している。同制度は、伯公立学校の教師などが現在の日本の教育現場を知り、新たな日本の文化を持って帰国するデカセギ子弟への教育を考える機会とするためのものだ。
その第1期生が、サンパウロ州立ファドロ・アイダール校のCEL(州立教育局語学センター)で4年間日本語を教えた非日系のファビアーナ・クリスティーナ・ラモス・パトロシニオさん(27)。昨年7月末から今年1月にかけて富山県の高岡市立野村小学校に勤務、デカセギ子弟の教育に努めた。
同校に通うブラジル人児童は30人、一クラスに約3人のブラジル人児童が在籍していた。
ファビアーナさんは、日本語教室を受け持ったほか、一般科目についていけない子供たち15人に対して補強授業を行っていた。
最初、そういった授業も日本語で行うようにと学校からの指示があった。「日本語の文法も、ポ語で教える方がずっとよく理解できるはず」とファビアーナさんは主張し、他の日本人教師に訴えてきたという。
「母国を知らないこどもたちにどうしてもブラジルのことを伝えたかった」、と授業ではブラジルの文化も伝えた。そのうちに日本人教師、他の日本人児童の同教室への見方も変わっていき、いつしか授業をポ語で行うことも認められるようになったそうだ。
特に、ファビアーナさんは相互理解の促進に努めるべく、日本人、ブラジル人両者の側に立って意見を聞いてきた。
例えば、ブラジルでは親が家庭の都合で子供に学校を休ませる、早退させるといったことは日常的だが、当然日本では理解されない。「学校の先生たちは、その行動にいつも不満を漏らしていた」とファビアーナさんは話す。
また、「子供たちは日本語が分からないことから勉強への興味を失っている。言葉が分からなくて宿題ができないのに、それを日本人教師たちは子供の怠慢や親のしつけの問題だと誤解している」と指摘する。「実際、子供たちに悪気はないのに」と教育現場での理解の不足にショックを受けたそうだ。
家庭の相談にものっていたファビアーナさんは、デカセギ家族では親が非常に若い家庭が多いと注目する。「ある母親は14歳で妊娠し、娘が10歳になった今でもしつけの方法が分かっていないようでした」と途方に暮れる。
その児童が、学校にふさわしくない服装で登校してくるのは母親の格好を真似ているため、授業で居眠りをするのは一晩中母親とインターネットで遊んでいるためだった。
「親自体がそうだから、いくら学校で注意しても子供は理解することができない。その状況に教師たちも皆困っていた」と頭を抱える。
また、両親が若い場合離婚率も高く、そういった不安定な家庭のもとで子供たちは勉強に集中することができない。「まずは、子供に教育を行う立場の教師や親たちが教育環境を整えなければ」と、家庭、教室両側での教育環境の改善の必要性を強調した。
同研修で富山名誉友好大使にも任命されたファビアーナさんは、「今度は、帰伯するデカセギ子弟に向けた教育の準備を進めなければ」と身を引き締めた。今後はISEC(文化教育連帯学会)のカエル・プロジェクトなどに力を注いでいく。
半年間の勤務期間中、ファビアーナさんの知らぬ間にも、5人ほどの生徒が帰国のために学校を去っていった。世界金融危機の結果、デカセギの将来設計は、確実に複雑になっている。
帰国支援金制度適用の申請が終わりを迎えた今、今後増加が予想される帰伯者対策に期待がかかっている。(長村裕佳子記者、終わり)
写真=ファビアーナさん