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変化する日本の雇用環境=三井物産冠講座=東京大学荒木教授が講演=正社員支える外国人派遣=年金協定は最終段階

ニッケイ新聞 2010年4月15日付け

 第3回三井物産冠講座がサンパウロ大学(USP)法学部教授室で5日夜行われ、東京大学の荒木尚志教授が「日本の雇用システムの変化と労働政策」をテーマに外国人労働者を取り巻く雇用環境の変化を概観し、島村暁代助教(かつての助手)は「日伯年金協定締結への最近の動き」をテーマに講演した。

 最初に島村助教は、「年金協定の文書はほぼできあがっており、両国政府で最終調整している段階。日本側では今年中に署名を終えたい意向」だという。その後、国会で承認を受け、施行される。そのため実際に法律が有効になるにはまだ2~3年はかかりそうだという。
 今まで駐在員などで年金を日伯で二重払いしていた場合があったが、発効後は通算されるようになり、無駄な支払いをしなくても良くなる。
 また訪日就労者の場合も、ブラジルで払っていた年金と日本で払っているものを通算して計算でき、支払った金額に見合った額をどちらの国でも受け取れるようになるという。
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 一方、荒木教授は「新聞などが伝統的な終身雇用制が崩壊したなどと書き立てているが、実際はそうではない。むしろ伝統的な雇用制度を守るために、派遣労働者を導入しているのが現実。そのため正社員の比率が下がっているが、けっして制度自体が崩壊したわけではない」と強調した。
 90年代には正社員は80%も占めていたが、今は66%に下がった。その分増えたのが非正規雇用だ。この部分にパート、学生アルバイト、日本人や外国人の派遣労働者などが入っている。
 日本人労働者数は約5500万人、それに加え外国人労働者が565万人(09年10月現在)おり、合計約6千万人になる。外国人労働者中、最多は中国人の44%、ブラジル人は18・5%(10万5千人)で、全労働者数からすれば0・2%。
 非正規雇用の質も変化した。かつては主婦のパートや学生アルバイトなどのように家計を補助する役割が非正規雇用の大半だったが、現在は違う。非正規雇用を奪われれば、住むところもなくなる派遣労働者も多いのが現実だという。
 非正規雇用が増えたのに比例して、労働に関する法律相談が大幅に増えており、1990年頃には年間1千件だった労働訴訟が現在は5千件にふえているが、「ブラジルの160万件に比べればまだ少ない」と比較した。
 この20年余りの経済低迷の中で、日本は米国型の市場原理主義を取り入れた結果、規制緩和が進み、派遣労働者が増加した過去を振り返り、「働きがいのある仕事を保証するのが労働法の任務。人を尊重した労働環境の実現にむけ、正規の労働者と非正規のバランスをとっていくことが必要」と締めくくった。