ニッケイ新聞 2010年4月28日付け
【既報関連】定住地を求め、土地なし農民運動(MST)関係者が「赤い4月」の活動を続けるのに対し、国立植民農地改革院(Incra)は既に5万家族を定住させ得る土地を持っているのに、MSTをのさばらせているとブラジル農牧連合(CNA)などから苦情の声も出ていると27日付エスタード紙が報じた。Incraのあり方も含め、ルーラ政権には二つの顔があるとのMSTリーダーの発言も気がかりだ。
MSTメンバー9万家族は未だにビニールシートで覆った小屋に住み、5年以上、定住地を持てないメンバーもいるという話は21日付本紙で既に報じた。
それに対し、Incraには5万家族が定住できる土地があると聞けば、なぜ定住が進まないのかと疑問に思うのは当然だ。しかも、Incraが持つ土地はそれ以上との声もある。
Incraは、同機関が管轄(所有)する土地は、690軒の家屋を含む150万ヘクタールだが、その内の64万4千ヘクタールは、接収、買い取りのための司法判断待ちだという。
他の13万9千ヘクタールは、係争も終って定住用に分割されたが、州環境局などの許可が下りず、選ばれた定住者家族を受け入れられない状態。50万3千ヘクタールは、買い取り価格で交渉難航中という。
となると、予算さえ下りれば定住可能なのは、81家屋、21万6千ヘクタールのみ。ちなみにIncraの今年の予算は20億レアルだ。
一方、Incraが提供する定住用地の60%は、州政府が公用地として買い戻したり、既に定住者がいるとされ、資金の流れや管理のあり方などに疑問を持つのは、MSTの侵入で悩むCNA関係者だけではない。
09年にペルナンブコ州での抗争に関する調査を行ったマルセロ・ベルテ判事もその1人。当局の土地取得から定住までに時間がかかる、隣接する牧場主が牧畜に使っている区画もあるなどの現実に驚きを隠せない。
MSTリーダーの1人は、現政権は社会運動を犯罪視せず、MSTの要求にも熱心に耳を傾けている素振りを見せるが、代表者が部屋から出た途端、「セスタ・バジカを配り、生活扶助支給対象として登録したりしてご機嫌をとった後は、いつまでも放っておけばいい」といわんばかりに態度豹変と痛烈に批判。
27日G1サイトは、アグリビジネス・ショー参加者からは農業部門への融資不足を訴える声が出ていると報道。「定住や農地改革に向けて、本気で交渉、解決する気がない」という社会運動家の言葉が真実なら、農業政策をないがしろにしたまま社会運動擁護を謳う現政権の高評価は、上辺を飾った砂上の楼閣という事にもなりかねない。