ニッケイ新聞 2010年5月7日付け
疑惑の渦中にある灰色議員の選挙出馬差止めなどを扱う法案「フィッシャ・リンパ」の下院での審議が4日から具体化したが、5日には、11日までの審議中断が決まったと、5、6日付伯字紙が報じた。根幹部分については5日未明に承認された後の審議中断は、10月の統一選挙への出馬差止めを防ぐための最後の足掻きとの見方が広がっている。
連邦直轄区知事も絡んだ贈収賄事件発覚後、ルーラ大統領が「吐き気をもよおすような悪質な犯罪」と痛烈に批判した政界汚職。日本語の「反吐(へど)が出る」に当たる表現だが、実際には、政治家絡みの犯罪は職権乱用や贈収賄、公金横領から殺人まで、広範でその数も多い。
それだけに、何らかの犯罪に関与したとの疑惑のある人物が、各種議会その他の公職選挙に出馬する事を良しとするか否かを問う「フィッシャ・リンパ」の審議には、そこに参加する議員自身の倫理観や良心といったものを問う意味もある。
政界全体に広がる汚職は根絶が困難だが、最高裁で断罪された人物以外は出馬を認める、刑期終了後3年のみの被選挙権停止、辞職すれば次の選挙に出馬可能という現行の選挙法見直しを求める同法案審議で、根幹部分採決前に、出席議員445人中55人が退席、内26人は裁判所で審理中の報道は気にかかる。
また、5日の会議で審議の一時中断が決められたのも、環境犯罪などに絡む部分の審議で火の粉が降りかかるのを少しでも先に引き延ばしたい農業関係議員中心に、何らかの工作が行われたとの見方が出ている。
選挙絡みの汚職撲滅運動(MCCE)関係の非政府団体(NGO)は、インターネットで汚職反対署名を集めるなどの形で圧力をかけ、同法案提出が検討され始めた時期からの160万人分プラス200万人超の署名を議会に提出の上、審議欠席その他で同法案承認阻止への動きがある事も鋭く批判。ブラジル弁護士会(OAB)も、審議中断は、今年の選挙での同法適用を逃れようとする議員達の苦肉の策に他ならないと手厳しい。
抗告がまだ認められる第一審判決時から選挙出馬差止めとなり、辞職しても次の選挙での出馬不可、刑期終了後も8年間被選挙権停止、対象となる犯罪の種類拡大などを盛り込んだ同法案。
灰色議員が再選により禊(みそぎ)を受けたと大手を振って歩く様になるのはブラジルだけの事ではないが、選挙民の側に立ち選挙民の利益を考える候補の出馬や政界清浄を願うなら、同法の審議の行方も見逃せまい。