ニッケイ新聞 2010年5月8日付け
「ユバの存在は宝物のようなもの。この連帯の精神は心を打つものがある」。1日にサンパウロ市のサンパウロ州立美術館(ピナコテッカ)で行われた神沢ルシレさんの写真集『弓場』(Terra Virgem Editora刊)の刊行記念パーティに出席した連邦最高裁の上田雅三判事は、そう挨拶した。当日持ち込んだ250冊は瞬く間に売り切れて神沢さんのサインをまつ長蛇の列ができ、出版社社員も「普通はどんな有名人でも70冊程度、弓場の人気はすごい」と驚いていた。
首都ブラジリアからわざわざ来聖した文化省のアメリコ・コルドラ多民族文化アイデンティティ局長は、「弓場の持っている芸術、宗教、土に対する想いがこの本に込められている」とのべ、「来年はテアトロ・ユバ建設50周年、立て直す良い機会だ」と付け加えて文化省の支援をほのめかせ、関係者を驚かせた。
弓場農場のあるミランドポリス市長代理で文化局長も「当市の名前を全伯どころか国際的に知らしめる本であり、誇りに思う」と語った。大部一秋在聖総領事夫妻も出席した。
神沢さんはユバの主治医だった「亡き父(神沢義人よしと)に捧げる本だ」とし、涙ぐみながら出版関係者に感謝した。
続いて、このためにバス片道約8時間の道のりを車中泊で馳せ参じた弓場農場の34人が、「ソーラン節」「ライジング」「フェスタ・デ・インテリオル」を披露し、会場は立錐の余地のない状態になり、あらゆる窓から鈴なりの観客が顔をのぞかせ、大きな拍手に包まれた。
同農場の代表、弓場常雄さんは「とても良い写真が撮れている。出版したいと言い出してから7年。本当によくやったとおもうよ」と賞賛した。
会場にいた匿名希望の駐在員夫人は、昨年同農場に遊びに行って気に入り、「昔の日本をとても大切にしている」と感じ、写真集を購入しに来た。家族に会うために来伯し、たまたま美術館を訪れていたサラ・シャリエルさん(79、イスラエル在住)は、「これはブラジルの地方文化でもあり、日本文化でもあると感じた。実に興味深い存在」と語り、さっそく購入していた。
同出版社(11・3081・9932)の担当者ジョゼマナ・ベルトリさんは「当社初の日本文化関連の出版物だが、これは一般社会に売れる本だと確信する」とのべた。日ポ英3カ国語版、65レアル。今後フィナッキ、クルツーラ、シシリアーノなど主要書店で販売され、各日系書店にも依頼するという。