ニッケイ新聞 2010年5月27日付け
ブラジルは1990年代、大豆をはじめとした穀物の生産量が大幅に伸び、農産物純輸出額では現在、世界一になっている。とくに大豆の生産量、輸出量ではアメリカに次ぎ、ともに世界2位を誇る。その背景にあるのがセラード開発だ。しかもセラードには、いまだ開拓可能な土地が、牧草地からの転用も含めれば、約2億ヘクタールもあるといわれ、潜在的な生産力は農業大国・アメリカやオーストラリアをはるかにしのぐ。
【今年3月にセラード取材を行った家の光編集部・佐藤哲也記者の『地上』6月号で掲載された記事(一部加筆・修正済み)を転載する・編集部註】
今後、世界各国で所得水準が上がれば、食用油脂や肉を必要とする人口が増えることが予想され、大豆の需要は増す。大豆は、油を搾り、搾った粕は飼料に使えるからだ。
世界の大豆生産は、季節が逆になる北半球と南半球で半年ごとに収穫期を迎える。北半球にはアメリカという世界最大の大豆生産国があり、南半球には、ブラジル、アルゼンチンという、世界2位、3位の生産国がある。
しかしこれら生産国のうち、アメリカにおいては今後、開発できる農地は少なく、耕作地は広がらないとみられ、生産量は頭打ちになると予測されている。アルゼンチンも同じく、開発可能な土地がなく、遺伝子組み換えなどの技術革新でしか生産は増やせないといわれている。
ところが、ブラジルは生産量、輸出量ともにアメリカを近い将来かならず抜くといわれている。ブラジルには、潜在的に2億ヘクタールの開発可能な土地があり、そのうち15%に当たる3千万ヘクタールを開拓すれば、それだけでいまのアメリカの生産量(9千万トン)に匹敵するからだ。
その開発可能な土地が、「セラード」である。セラード地帯は降水量の少なさを除けば、「世界最高の気候条件」と言われる。その一方で、「世界最悪の輸送経路」とも言われ、長く開発から取り残されていたところである。
いまだ開発可能な土地を残すセラードだが、本格的な開発が進められた背景には、日本の存在があった。穀物を安定的に輸入したいと考えた日本が、いくつかの候補国のなかから、ブラジルを選び、開発を支援したのだ。
田中角栄首相とガイゼル大統領による「日伯セラード農業開発」の共同発表は1974年9月のことだが、開発事業がスタートしたのは78年。そこから23年にわたり、二国間協力の壮大な事業が行われ、世界に例をみないスピードでブラジルは農業大国になっていった。
こうした歴史と可能性をもつのが「セラード」なのである。(つづく)
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佐藤哲也(さとう・ってつや)1973年、佐賀県の農家の三男に生まれる。長崎大学経済学部卒。95年、社団法人家の光協会入会。現在、家の光編集部在籍。
『地上』は47年創刊の「食と農の総合誌」。農業に生きる人を応援する雑誌で、読者対象は主に地域農業の担い手やJA青年部員、JA役職員、地域リーダー。近年女性読者も増えている。
写真=セラードの大豆生産地