ニッケイ新聞 2010年6月1日付け
ブラジルでの大豆生産というと気になるのが、遺伝子組み換え大豆の動向ではないだろうか。
ブラジルでは近年まで、国がGMO(遺伝子組み換え)大豆の栽培を禁止していた。しかし、アルゼンチンやパラグアイなど近隣諸国からの種子流入が起こり、急速に広がっていった。国はこの状況に条件付きながらも許可せざるを得なくなったのだという。
コアノール農協では、GMO大豆を作るか否かは組合員個人の判断に委ねている。
「農薬や除草剤散布、施肥などで機械が畑に入る作業は、非GMOが12回あるとすれば、GMOはその半分の6回ですむ。肥料、農薬代だけでなく、燃料代も削減できるからね」
イルモ氏がこう話すとおり、農協が組合員へ販売する大豆の種子は、8割が遺伝子組み換えのもので、圧倒的にGMO大豆が多い。これは、組合員が生産コストを考えたうえで決めたことだ。
収穫後に農協が集荷する大豆は、GMOと非GMOは混ざらないようにしている。自己申告に頼らず、組合員が出荷する大豆のサンプルを採り、検査している。同時に、調べた不純物の割合を総重量から引いた分が生産者の出荷量となる。
また、農協は集荷した大豆を一度に売るのではなく、売る量と売り先は生産者自身が決める。農協に出荷した後は、GMOか非GMOの区別があるだけで、サイロに貯蔵されたなかから、「いつ、何トン売るか」を決めるのだ。
「シカゴの相場を見ながら、その時点でいちばん高く買ってくれる会社に売る。機械の支払いや融資の返済期限が迫ってきたときなど生産者が売る必要があるときには、少し安くても売らなければならなくなるし、穀物メジャーが買いたいときは、生産者が思っているより少し高く(1俵=60キロ当たりプラス50セント程度。約45円)買ってくれる。1千俵、2千俵といった単位で売りたいという人もいる。そのときに、売りたい人たちが集まって、2万俵なり3万俵にして売りに出すことが多い。量がまとまったほうが有利で、すこし高く売れるからね」
ところで先述の投資による規模拡大をめざすという方向に加えて、もう一つ特徴がある。ブラジルは、銀行以外に穀物メジャーから作付けのための融資を受けている生産者が多いことだ。コアノール農協の組合員も例外ではなく、全体で年間100万レアル(約5千万円)の融資を受けている。
これは農協を介した融資で、これ以外は生産者自身が直接融資を受けたり、肥料・農薬メーカーから現物で融資を受たりするケースもある。金利も生産者個別の契約で異なり、高金利で借り、収穫後に返済すればほとんど手元に残らないという生産者もいるのだという。
そうした理由から、土地を泣く泣く手放し、農業を辞めていく組合員もいた。借金だけが原因ではないが、87年のプロジェクト開始当初に50人いた参加者は、今では35人になった。
しかし、プロジェクトのおかげで、プロジェクト参加以外の生産者が、ウナイに入植してくるようになり、農地は拡大を続けている。(つづく)
写真=コアノール農協の職員。前列左から2人目がイルモ組合長