ニッケイ新聞 2010年6月3日付け
フェルナンド・エンリケ・カルドーゾ政権時代に関する学術書「Democracia, crise e reforma」がパス・イ・テーハ出版社から4月に出版された。元外務大臣のセルソ・ラフェール氏や同政権で初代行政改革相を務めたブレッセル・ペレイラ氏など約30人の著名な政治家、教授たちが論文を寄稿している。
3部構成の同書は、第1部でカルドーゾ元大統領自身に関する考察、第2部で8年間の同政権の諸政策を分析、第3部ではその政策が国際的視点から比較分析された。
第3部では「カルドーゾ大統領を通してみたブラジル―日本からの論点と急成長するアジアへの示唆」という題で、上智大学外国語学部ポルトガル語学科の堀坂浩太郎名誉教授、子安昭子准教授も執筆。同政権について「今日のアジアに照らし合わせると輸入代替工業化から開放経済体制へのブラジル移行期で民主主義、経済安定、社会改革の3つのアングルから問題解決に臨んでいたことが示唆に富む」と指摘し、「日本も改めてこの3点の関係性を検証する必要があり、カルドーゾ元大統領の考え方には経済発展の成功ストーリーのなかでアジア諸国が置きざりにしてしまった論点があった」と評している。
堀坂名誉教授はニッケイ新聞の取材に答え、「同政権8年の足跡をたどり、まさしくブラジルの転換期であったとの思いを強くした」と述べ、「ルーラ現大統領との仲は必ずしも良いとはいえないが、カルドーゾ大統領はルーラ政権8年の繁栄の生みの親と言ってもよいのではないか」とコメントを寄せた。
4月22日には、サンパウロ市FAAPで出版記念式が開催された。式の中では編集者マリア・アンジェラ・デ・インカオ氏、ペレイラ元行政改革相、ラフェール元外務大臣、人類学者のロベルト・ダ・マッタ氏らによる討論会も行われ、カルドーゾ元大統領も出席した。
記念式に出席した同学科98年度卒業生の大岩玲さん(35、東京)は「堀坂、子安両先生が著者として紹介され、上智OBとして嬉しい瞬間でした」と笑顔で語り、「ブラジルの躍進に偉大な政治家の力が大きかった事を再認識した。来年以降、新大統領の求心力低下で国の進む道に〝ブレ〟が出ないか気になった」と話していた。