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セラードの今を歩く=家の光編集部・佐藤哲也=(5)=効果的コストで驚異的収量

ニッケイ新聞 2010年6月3日付け

 次に訪問したのが、ミナス・ジェライス州の北に位置するバイア州だ。その州西部の都市・バレイラスから西に80キロほどの位置にルイス・エドワルド・マガリャンエス市(以下LEM)がある。
 LEMの北部には、大豆、トウモロコシの大穀倉地帯が広がっている。見渡すかぎりの大豆、トウモロコシ畑が地平線となって続く。
 3月中旬、小山タダシ氏(56)の農場では、幅9メートルもある17条刈りの大型コンバイン3台を使って大豆の収穫作業が行われていた。
 小山氏は大豆2100ヘクタール、トウモロコシ600ヘクタールを作る。今年、大豆では1ヘクタール当たり72俵を収穫した。平均的な収量が50俵だといわれているなかで、驚異的な数字だ。なぜ、これほどの多収が可能になるのか。
 「それだけコストをかけているからだよ。でも、いくらでもかけていいわけではなく、売り上げが増えてもそれ以上にコストがかかってしまえば、かける意味がないからね」
 そう言って小山氏は、生産計画書を見せてくれた。農薬や肥料代などの項目にはUSドル、ブラジルレアル、大豆の俵数それぞれに換算して生産コストを算出している。1ヘクタール当たりの生産コストは、大豆で47俵(実際には、コストは47俵以下に収まる)分を見積もっている。
 コスト管理を徹底しなければ、利息を払うことだけに追われ、生き残れないのもブラジル農業の現実だ。
 小山氏は、バレイラスとLEMに事務所を置くコプロエステ農協の組合長を勤める。農場に管理者を置かず、自身が農場に住み込んでいるのだが、数年前、農協の組合長に就任したことで、バレイラスと農場を往復する生活に変わった。
 「農協の仕事をやるようになって、町と農場を行ったり来たりするようになった。以前よりも年間3万キロも、車の走行距離が増えたよ」と、小山氏が笑って話せるのも、3人の優秀な「右腕」とも言える人材がいるからだ。
 その3人が収穫時には3台のコンバインを操作する。もともとはLEMに土地を買ったときに、開墾作業のために雇った人たちで、切り倒した木の根をいっしょに拾った仲間でもある。
 農機具の使い方も、小山氏がすべて一から教えたのだという。入植当初から苦労を共にしてきた仲間だからこそ、固い信頼関係で結ばれている。 3人には月給のほか、年度末に売り上げに応じて手当てを出し、年額にすれば、かなりの金額になる。この額は、サンパウロで働いてもなかなかもらえない金額だ。
 小山氏の農場で収穫した大豆は、30%がLEMにある穀物メジャー「ブンゲ」の搾油工場に出荷し、残りを国内穀物企業「ムーチ・グレイン」や穀物メジャー「ADM」などに販売する。 少なくみても、今年は1ヘクタール当たり25~30俵分が利益となる。そこから、投資分(土地代や借金の返済、設備費)を差し引いた額が、手元に残る。
 小山氏が所有するコンバインは1台約68万レアル(約3400万円)で、6年払いで購入したものだ。新車を購入するのは支払いがたいへんなため、小山氏は8年使ってから売り、新車の購入資金に充てている。8年使っても、購入時の40~45%で売れるのだという。
 それは、使用後の洗浄や手入れなど、こまめにメンテナンスをするからだ。もちろん、メーカーに依頼するとコスト負担が増えるため、ちょっとした修理くらいなら自分たちで済ませてしまう。 「それでも、機械は一度買ってしまえば、それ以上のコストはかからないけれど、燃料が高いと思うね。収獲のとき、朝8時から夕方6時ごろまで機械を使えば、一日800リットルにもなるよ。年間だと、15万リットルにもなるからね」
 ブラジルのディーゼル燃料価格は、1リットル当たり約90円で、それだけでも年間1350万円にもなる。輸出もする産油国でありながら、ガソリンやディーゼル燃料価格は国際相場より30%以上高いといわれている。
 また小山氏が、効果的な投資の基本においているのが土づくりだ。毎年、サンパウロ州カンピーナスにある研究所に土壌のサンプル(50ヘクタールにつき4個)を送り、分析してもっている。その結果をもとに細かい土壌設計を立てる。 「分析結果をみて、畑のどの箇所にどれだけの肥料を入れればよいかや、酸性を改良するために石灰(カリ)をどれだけ入れればいいかを判断する。窒素、リン酸、カリ以外にも微量要素のマンガンや亜鉛、コバルト、モリブデン、ホウ素も計画に基づいて投入している。そのほかにもアミノ酸を入れることもあるよ」   (つづく)