ニッケイ新聞 2010年6月5日付け
ブラジルでは、投資して土地を購入する。ところがほとんどの場合、このすべてが農地として使えるわけではない。開墾と土壌改良には時間と資金が必要で、農地だけを買えば資金がより必要になる。開拓済みの農地に作付けをする一方で、農家は自分たちの手で、未開拓の土地を拓いていく。
小山氏は83年9月に1815ヘクタールの土地を購入した。
ブラジル南部のパラナ州に、兄弟で所有していた土地180ヘクタールのうち、50ヘクタールを売った代金を購入に充てた。パラナの土地1ヘクタールで、バイアの土地が40ヘクタール近くも買えた計算だ。
その翌84年から作付けを始めた。しかし、1800ヘクタールもの土地を購入したものの、農地として使えたのは、一割にも満たない150ヘクタールだった。
その後、未開拓の土地を開拓し、農地面積を増やしていった。徐々に経営がうまくいくようになり、資金に余裕ができるようになった。
2度目の土地購入は90年。490ヘクタールの土地を1ヘクタール当たり10・61俵(計5200俵)で購入した。ブラジルでは土地代金の返済が現物でもできるのだ。ただ、初めから農地として使用できる土地は150ヘクタールだった。
90年代前半、ブラジルは通貨危機に瀕していたが、ドルに対し、レアル安となり、ドル建てでの大豆販売は、農家にとって高収入をもたらすことにもつながった。
小山氏は順調に借金を返し終え、自己資金で作付けをしていたが、3度目の土地購入のチャンスが訪れる。
「買うつもりはなかったんだけど、土地を買ってくれと頼まれて。面積が大きいから冗談で、『10年払いでなら』と答えたんだよ。そこから話が進んでしまって」
こうして、2006年に1500ヘクタール(土壌改良済み農地は400ヘクタール)を1ヘクタール当たり90俵で購入した。15年の間に、土地の値段は桁違いに値上がりしていた。 いまは大豆価格が安定しているので、土地の決済が大豆でもでき、買いやすい。一方、土地を大豆現物で売るとなると、リスクを考えれば生産性の高い農業者に売りたいとなる。小山氏が土地を買った相手は、小山氏だから売りたいと考えていたそうだ。
現在、土地の支払いがあるため、経営状況はかなり厳しいという。リスクヘッジのために、一部をコスト割れしない価格で前売りもしている。今年は自己資金20%で、80%を銀行からの融資に頼る。
ブラジル銀行などから、約200万レアル(約1億円)を年利8・7%で融資を受けている。この金利はブラジルでは低い利率で、ほとんどの農家が10%を超える年利で融資を受けている。
毎年、収穫後に返済し、作付けの時期になると再度、融資を受ける。土地の支払いは13年までと、あと4年で返済する計画だ。今年は500ヘクタール分の支払いが完了し、経営も改善しそうだ。
返済が終了すれば、14年には、自己資金50%、15年からは、自己資金100%で作付けできる見込みだ。すべて自己資金で作付けができれば、売り先の自由度もあがり、経営はいま以上にうまくいくはずだ。小山氏は5年後を楽しみにしている。
返済は、06年に土地を購入した際に計画したとおりに進んでいる。むしろ少しだけ順調にいった分、すこし資金に余裕ができ、ふるさとのパラナにも土地を125ヘクタール買ったのだと教えてくれた。うれしい話はもう一つある。
「土地を買ったときに、子どもたちには家計を切り詰めてほんとうに苦労をかけた。でも、ブラジリアの大学に通う息子が、『お父さんの跡を継ぐ』と言ってくれているんだよ」
そう言って、小山氏は目を細めた。(つづく)
写真=小山氏