ニッケイ新聞 2010年6月10日付け
「戦争で失った日本文化を、この機会に取り戻したい」。来年、高拓生入植80周年を迎えるアマゾナス州パリンチンスでは日系団体関係者らが着々と準備を進めており、かつてアマゾンに〃理想郷〃を建設しようとしたヴィラ・アマゾニアに日本文化の象徴である八紘会館を再建する予定だ。これを機会に、戦争中に敵性資産として接収され、迫害されるなかで失った日本文化を取り戻そうと意気込んでいる。
来社したパリンチンス日伯協会の武富マリオ会長(53)は、「24日に赴任するJICA青年ボランティアには日本語教育だけでなく、来年の式典で披露する日本の踊りなどの日本文化も教えてもらいたい」と期待に胸をふくらませている。
1931年に国士舘高等拓植学校(後の日本高等拓植学校)の卒業生(通称・高拓生)の第1回生がヴィラ・アマゾニアに足を踏みおろしたのが6月20日。ジュート(黄麻)を導入して一大産業として発展させたが、第2次大戦で施設を接収された悲しい歴史がある。80年前に足を踏み入れたまさにその日に、高拓生OB会を中心に同地で式典を行う。
記念事業の目玉は、創立10周年で建設された八紘会館を再建して資料館にすること。
「当時の写真や物品を展示して、みんなに高拓生の歴史を知って欲しい。資金は足りないが完成を目指して頑張っている」という。
武富会長は三世。祖父は1929年にマウエスでガラナ栽培に入植したアマゾン開拓先駆者。同地でマラリアに苦しみ、途中からパリンチンス周辺に移転して高拓生と一緒にジュート生産に従事し、50年代に現在の同市内に移った。
同地日伯協会には80家族(600人)の会員がおり、160人の生徒がいる小学校を市役所と共同運営している。同校に青年ボランティアが派遣され、日本語や日本文化を教える予定。
父親が高拓生で、同地の移住史を書いた著書『A fibra e o sonho』を昨年出版した池上アントンさんは、「今の三世はただのブラジル人になってしまっている。他の外国移民はアマゾンから略奪しようとしたが、日本移民はあの地域に夢を託し発展させようとした。今この機会に日本文化を取り戻すことで、日系本来の姿を取り戻すと共に、地域を豊かにする取り組みになる」とこの動きを高く評価した。
武富さんは「サンパウロ市に多くの高拓生子孫が住んでいる。一人でも多く当日の式典に参加して欲しい」と呼びかけた。