ニッケイ新聞 2010年6月29日付け
今年の1月に地下鉄緑線(2号線)が開通したサンパウロ市サコマン区は住宅ブームに火がついたが、今もなお郊外のような静けさを残す住宅地であり続けている。27日付エスタード紙は、サントス港に近かったことから発展した同地域の歴史に触れつつ、都会の真ん中に残る異空間を紹介した。
サンパウロ市南部のサコマン区はセントロまで10キロと近く、それでいてオフィス街の多いABC地区へのアクセスも便利だ。さらに地下鉄サコマン駅の開設が予定されてきたここ15年間は住宅業界からの注目度も高く、昨年も約30件の新物件が発売された。
こういった住宅の購入者の中心は中流階級層で、比較的低価格であることと交通の便からみた立地の良さが魅力となっているようだ。2寝室付きで50メートル四方の物件なら、相場は19万レアル。住宅業界では地下鉄駅開設に伴い、30~50%の地価上昇も見込んでいるという。
こういった住宅ブームが進む一方、サコマン区では静けさが保たれているのが特徴。その風景はまるで郊外のようで、通りには無邪気に遊ぶ子供たちの姿がみられる。
そんな同区発展のきっかけは、地理的要因にあった。19世紀後半、フランス人のSaccoman兄弟が陶器瓦の工場を作ることを目的としてサンパウロに降り立つ。
サントス港が近かったことで、現在のサコマン区が建設地として選ばれ、ブラジルで最初の陶器工場「Saccoman Freres」が完成された。同工場で生産された陶器瓦は、サンパウロ市建設業の急速な発展にも寄与したとされる。
1920年代に兄弟のうち1人が亡くなったためにSaccoman兄弟はフランスへ引き上げ、イビラプエラ区が近かったことから工場はイビラプエラ工場と呼ばれるようになったが、Saccomanの名称は地区の名前として残されたようだ。
また、同区には「涙の木」として知られる逸話の木がある。サントス港へと続く街道の始まりに植えられていたその美しいイチジクの木の下は、サントス港から出発する人の家族らが辛い別れを遂げる場所になっていたという。
多くの人々の悲しみを見守ってきたその木は、後に移植され、現在はラグリマス(涙)街道515番に植えられている。