ニッケイ新聞 2010年6月30日付け
連邦会計検査院(TCU)が国庫負担の削減を目指し、軍政下で弾圧された人々への賠償金支払額の見直しを進めていると27日付エスタード紙が報じた。既に支給または支給を認められた42億レアルの95・2%を対象とする予定というが、28日付同紙によれば、精神的にも肉体的にも苦渋を経てきた貧しい人々の中には、審査の遅れで賠償金受取りの悲願も叶わぬまま死亡する人も出ているという。
1960~80年代の軍政時代に政治犯として投獄されたり解雇されたりした人は数多いが、TCUは、これらの人々が当時被った損失を償うための賠償金支払が国庫を大きく圧迫しているとして、賠償金額の見直しを主張。1988年に新憲法が制定されるまでの間に政治的弾圧を受け、2002年制定の法令による賠償金受給対象とされた人の内、9371人が見直しの対象の様だ。
弾圧被害者が既に死亡し、10万レアルを1度に支払うという例は4・8%で見直し対象外だが、前記の人々の場合、月々支払われる平均3千レアルの賠償金の他に、解雇されたりして失った収入分を1988年まで遡って補填するレトロアチーヴォと呼ばれる賠償金が加算される。
例えば、軍を脱退してゲリラ活動に従事し、1971年に死亡したカルロス・ラマルカ氏の遺族への支払いは、月1万1444レアルにレトロアチーヴォ90万2700レアルだが、TCUはこの額は見直すという。
月々の受給額は4375レアルだが、レトロアチーヴォ100万レアル余りと裁定された新聞記者の場合も減額対象とみなすなど、TCUの見直し案が実行されれば、国庫負担は何百万レアル単位で軽減するという。
一方、農牧畜業に従事していた人や小規模な商店主などは賠償金額も小さい上、その審査が遅れに遅れて賠償金の支払さえ受けずに亡くなる例も続出。昨年7月にパラー州南部のサンドミンゴス広場で時の法務大臣タルソ・ジェンロ氏が同州の貧しき住民43家族に約束した賠償金支払は、司法判断で反故にされ、「今後は軍政下で弾圧されたが忘れられた存在となっていた人々優先で恩赦を行う」との約束も実現していない。
4月に死亡したジョゼ・フランシスコ・ピント(通称、ゼ・ダ・リッタ)氏は、奴隷労働を強いられ、賠償金請求を行いながら実現を見ずに逝った人物の一人だが、元ゲリラ関係者も多いアラグアイア地方では、8万3千~14万2千レアルの賠償金支払が法務省恩赦審議委員会や同地方の農民達の声も聞かないまま停止されるなど、貧困にあえぎ、肉体的にも健康を損ねて苦渋の中にいる人々を失意のどん底に突き落とす様な仕打ちも起きているという。