ニッケイ新聞 2010年6月30日付け
セレソンが試合を始めると、新聞社の外が急に静かになる。サンパウロが沈黙する。普段は自家用車やバスでいっぱいの新聞社前のグロリア街も、信号機前に一、二台停まっているのみ。隣の高速道路ラジアルを通る車も年末年始のように少ない。ガルボン街を歩いたらスーパー丸海、レアル銀行、池崎商会など大半の商店のシャッターが降ろされ、人通りが異常にまばらだ▼あちこちのバールからうなり声が聞こえ、花火が上がる。国中がテレビの前に釘付けになって試合を見ている。セレソンの試合中は町が、いや国が止まる。こんなところは他にないだろう▼一次リーグ最後のポルトガル戦は力を抜いた消化試合にみえた。W杯が7試合をわずか一カ月でこなす強行軍であることは、決勝戦まで進んだ数少ない代表チームしか知らない。常連であるブラジルは、決勝トーナメント(T)進出を2試合で決めた時点で、気力や体力の温存を決めこんだとしても不思議はない。マスコミ陣も本音ではそう思っていても、相手チームに失礼だから公にはそうは言わない▼決勝Tの4試合は組み合わせが重要な勝ち抜き戦であり、息の抜けない試合が続く。ブラジルにとってチリ、オランダはそれほど苦手な相手ではない。永遠のライバル亜国、調子の良いドイツを避けた組に入っているのも計算尽くだろう▼まだセレソンは本調子を出した試合をしていない気がする。試合を重ねる度にパス回しに切れが生まれ、攻撃パターンが増えていく。あくまでも決勝戦の時に最高の調子になるように調整している様に見える。国技の貫禄か。世界最多の5度優勝の経験は伊達ではない。(深)