ニッケイ新聞 2010年7月14日付け
弁護士を自称する男が関わったとされる約65万レアルの公金紛失事件で再建途上にある神奈川文化援護協会(永田淳会長)。裁判費用等捻出のため2月の臨時総会で決定した現会館の売却問題が、思わぬ方向から動き出しているようだ。名乗りを上げているのは、これまで幾度にわたってコロニアに話題を提供してきた資産家の天野鉄人氏(サンパウロ青年図書館理事)。昨年からコロニア・ピニャールに居を構える同氏が売却価格の80%を出し、神奈川協会と共同所有する方向で話が進んでいる。11日に同会が開いた臨時総会で契約が合意されるかと思われたが、文書の一部をめぐって天野氏との話がまとまらず、一旦は白紙の状態に。両者は再び交渉を進めることで合意しているという。
神奈川協会の公金紛失事件は、元会長による旧会館の売却問題に絡んで起こされた訴訟で、弁護士を自称するアサカワ・マルセロという人物が裁判費用などとして協会の公金を送金させ続け、その額が65万レアルにも上ったもの。
11日午前に開かれた臨時総会には、役員、会員ら12人が出席。各種報告とともに、天野氏との契約内容が発表された。
同氏と神奈川協会との契約は、会館所有権の割合をサンパウロ青年図書館80%、同協会20%とし、法律上の書類が整備された段階で同図書館が神奈川協会に74万レアルを支払い、同時に神奈川協会が天野氏からの借入金15万レアル(今年5月31日から年利6%)を返済する。
神奈川協会が同会で年間行事を実施する場合は事前に調整の上、無料で使用できる。会館の運営は青年図書館が行い、売買についての決定権は青年図書館側が持つといった内容になっている。
借入金15万レアルは、同会の前会館売却に絡む訴訟費用、会運営費などに充てるため、同会が天野氏から借り受けたもの。
総会では役員が、天野氏、永田会長がサインした契約書を発表。しかしその後、天野氏が、会館内に神奈川協会の事務をする場所(一室)を決めるとする契約書の条項に難色を示し、物別れに終わった。
いったんは白紙に戻ったかに思われた共同所有の契約だが、その後天野氏から協会側に謝罪があり、問題となった条項の再検討とあわせ、再び交渉を行っていくことが決まったという。同会副会長の大矢進貞氏は、「再検討後、会に諮っていきたい」と語った。
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住宅街の地下鉄駅から徒歩10分の距離にある神奈川協会会館は2階建てで、敷地面積544平方メートル。今回の天野氏からの共同所有の申し出について同会側では、「申し出を受けることで、会としても何か手伝えるのではないか」という考えもあったという。
契約成立後の会館の使用法について天野氏は、「日系社会、ブラジルのために有用なことに使いたい」と話すとともに、立地条件が良いことなどを挙げ、日本語を学ぶ学生向けの宿泊施設として利用するのも一つの方法との考えを示す。
さらに、所有権を分けることについても、「神奈川協会が残ることで、県人は永遠に不滅」とその意義を強調。また、同協会の公金紛失事件についても、「たとえ最高裁まで行っても全面的に支援したい」と協力姿勢を見せた。