ニッケイ新聞 2010年7月21日付け
丘の斜面に不法占拠のバラック小屋が立ち並ぶファベーラは一般のブラジル人には足を踏み入れ難い場所だが、最近では外国人客が足を運ぶ新たな観光スポットとなっているようだ。18日付エスタード紙がツアーの内容に迫った。
昨年度の国外からの観光客は160万人を記録し、04年と比べ33%増加している。そんな中で、従来の観光スポットに加え、近年新たに需要が増えつつある珍しい観光スポットがファベーラだ。
ファベーラへのツアーはサンパウロやリオ周辺で企画されており、約3時間の所要時間で相場は1人あたり60~200レアル。地域で顔の知れたガイド同伴で訪れるツアーに身の危険の心配はなく、住民は写真撮影にも応じてくれるそうだ。
16日にサンパウロ市のファベーラ・パライゾーポリスを訪れたのは、イタリア人のマリア・ズペロさん夫婦。2年間ブラジルに滞在し、一度も足を踏み入れたことがなかったと今回のツアーを計画したという。
国内のファベーラからは著名な音楽家やサッカー選手なども輩出されているが、この日の2人はパライゾーポリスの芸術家を訪問。修理工アントニオ・エドゥアルド・ダ・シルバさんが機械部品を使って創り出すオブジェを鑑賞後、〃ブラジルのガウディ〃と有名な庭師エステヴォン・シルバ・ダ・コンセイソンさんの石やガラクタを壁に敷き詰めて作った「石造りの家」を見学した。
ツアーを終えたマリアさんらは、「文化人類学的には、他のどの観光スポットより興味深い」と満足した様子だ。2人のツアーを組んだチェック・ポイント旅行社のルシアーノ・デ・アブレウさんは「街の裏面を見ることで、ブラジル社会が抱える問題をみつめる機会にもなる」と話す。実際、アメリカから来る学生団体などの見学先にもなっているそうだ。
こういったファベーラの見学は、1992年にリオで開催された地球サミット「環境と開発に関する国際連合会議」の中での市内南部のファベーラ訪問が始まり。現在はファベーラのほか、クラコランジア(麻薬常習者の溜まり場)へのツアーも存在するようだ。