ニッケイ新聞 2010年9月1日付け
牛肉加工量世界一を誇るブラジルのJBS Friboiが8月29日、アルゼンチン国内の加工工場3つを売却し、同国内での活動を縮小する意向を明らかにしたと同31日付伯字紙が報じた。アルゼンチン国内の牛肉加工や輸出の行き詰まりは、その他の牛肉輸出国の動向と共に、ブラジルからの牛肉輸出やブラジル農家の収入増を生じさせたが、国民は高値止まりとなった牛肉消費を強いられる可能性が強い。
アルゼンチンといえば世界的に知られた高品質の牛肉輸出国だが、2008年以降、旱魃や政府の政策変更で大きな痛手を受けた同国の牧畜や食肉加工業は、加工工場の閉鎖や操業縮小など、目に見える形で悪化。工場売却表明のJBSに限らず、加工業者の投資欲は萎え、撤退を考える企業も出ている状態だ。
ブラジル企業JBSの進出は、05年のSwift社工場買い取り以降、積極的に進められていただけに、今回の工場売却は、同国内の牧畜業がいかに深刻な状態に陥っているかを物語る。
現在のアルゼンチンが抱える最大の問題は、飼育肉牛の絶対数不足。数年来の旱魃による牧草不足や政府が国内消費拡大のために敷いた輸出制限などで低く抑えられた生産者価格により、種牛まで殺す農家も続出し、ここ3年間の肉牛飼育数は15%減少。5年間で58%の牛を殺し、飼育数が5500から3500に減少したコルドバ州の牧畜家ニコラス・ダヴィドさんはその一例だ。
牛の供給不足は肉の価格上昇に直結するため、輸出用の牛肉加工が主流のJBSなどは減産と価格上昇の影響をまともに受けた。同じブラジル進出企業でも、国内向け加工優先のMarfrigでは肉牛減産の影響は多少小さいが、今年上半期の同国内の屠殺量は前年同期比45%減、国民一人当たりの消費量も09年の68・1キロが56・7キロに減少などの状況は深刻だ。
隣国の牛肉輸出は前年同期の半分に減った上、オーストラリアでは温暖化による牧草不足や牛減産、米国でも生産コスト上昇で肉牛生産が伸び悩み、各国とも土地の価格が上がり牧場拡張が困難になるなど、主要輸出国の問題増大はブラジルには好機。実際の増加量の記載はないが、8月31日付フォーリャ紙は、ブラジルからの牛肉輸出増加とそれに伴う生産者価格上昇は既に起き、生産農家には朗報と報じている。
ただ、生産者価格上昇や輸出増加は、ブラジルの消費者にとり、季節的要因による消費者価格高騰終了後も牛肉価格が高止まりする可能性が強い事を意味する。8月27日付フォーリャ紙に90レアル/アローバとあった牛肉価格は、30日には1年前の15%高の92レアルとなっている。ブラジル国民には減産せずとも遠のく牛肉となるのか、所得向上が値上り分を凌駕するのかは今後の動向次第といえそうだ。