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日本語教師リレーエッセイ=第12回=父母、祖父母と支える日本語教育=ピラール・ド・スール日本語学校=渡辺久洋

ニッケイ新聞 2010年9月18日付け

 多くの日本語教師の方もお気づきでしょうが、今から10年ぐらい前とべると子供の様子がかなり変化して来ました。それは日本語能力に限ったことではありません。生徒の内面的なところでです。
 その変化の要因として核家族化、一人っ子や兄弟の数が減ったことなどがあると思います。また子供の育て方や生活スタイルの変化なども大きく関係していると思います。それらに対して批判をするつもりはありません。ただ保護者の方に知っていて頂きたいことがあります。それは、「子供の可能性はとてつもなく大きい」「大人が考えている以上に子供は強くたくましい」ということです。
 私も何年も教師をやっていますが、今でも子供の可能性やたくましさに驚かされることがあります。「子供がかわいそうだから」「嫌がっているから」という声をよく聞きます。もちろん保護者の方は子供のことを考えてとても心配しているからこその声です。ですが、それが子供の可能性や成長の芽を摘んでしまっているということが往々にしてあります。それに、教育は子供の好き嫌いやかわいそうなどで決めるものではありません。
 人や時代が変わろうと教育の本質は変わりません。子供の成長のため、子供の10年後20年後のためです。私達大人はまず第一にそこを考えないといけません。保護者の方はきっと自分の子供に対する教育方針を持っていると思いますが、教師も同じです。日本語学校の教師としての教育方針にのっとって子供の教育にあたっています。
 両者には当然違いはあると思います。ですが、教育理念・教育方針を持った日本語学校は、これまでもそれに従って教育を行ってきました。その良し悪しは現在の生徒や卒業生を見れば判断できると思います。そういう教育理念を持った日本語学校に〃子供を通わせている〃のであり、もし日本語学校に保護者の教育方針が次々と反映されてしまうとすれば、もはや日本語学校の教育理念は崩壊してしまい、その年年によって日本語学校が変わってしまうということになります。
 時代が変わったからと言って、日本語学校の教育理念は大きく変わるものではありませんし、変えるべきものでもありません。教師と保護者は立場が異なるので視点が異なりそれに伴い考え方も違うところが出てきますが、両者の信頼関係が出来ていればきっと理解し合うことができるはずです。そしてそのためには、時々保護者会を開いて話し合う機会を作ったりして、教師と保護者のコミュニケーションを図ることが必要なのではないかと思います。
 一方、日本人会は日本語学校の経営を親の世代に任せ、「時代が変わったのだから」とほとんど口を出さず学校運営も親の世代に任せよう、という風潮があるように感じますが、私はそれに対して少し違和感を感じます。
 日本語学校は日本人会が作ったものであり、これまでの日本人会の人々が引き継いできた想いが詰まっているものです。おじいちゃん、おばあちゃん世代はその想いを親の世代に伝える義務があるのではないでしょうか。
 どういう日本語学校なのか。何を守ってほしいのか。教えてもいない、話したこともないものは、知るはずもなく伝わることもありません。世代が違うから、と退くことなく大いにその考えや経験、価値観、想いなどを、私達教師や親世代、ひいては子供達に話してほしいと思います。
 時代が変わっていくにつれ、薄れたもの・消えつつあるもの・失くしてしまったものがきっとあります。それらを伝えることができるのは、祖父母世代なのです。日本語教育、日本語学校に日本文化のよいものを長くしっかり伝えていくにはその力が必要であり、もう今しかできません。そして今の子供達にしっかりそれを伝えることができたのであれば、彼らが親となる時代になっても日本語教育の本質はしっかりと守られると信じています。
 私達も子供達と同じように勉強し成長を続けています。まだ知らないことや気づいていないことがたくさんあります。日本語学校という船は教師や保護者の力で進んでいくことができるかもしれません。ですが、時には日本語学校が間違った方向に行ってしまうかもしれません。嵐に遭うかもしれません。おじいちゃん、おばあちゃん達はその知識・経験により、その船をより正しい方向へ導く羅針盤のような存在であってほしいと願います。そして私達教師や保護者は、考えが古いとはねつけることなくしっかりと耳を傾けていかなければいけないと思います。
 日本語学校は子供が成長するだけのところではなく、教師や親の世代も成長しながら又横のつながりを持ち、そして日本語学校を通して世代を超えたつながりを築き上げ様々なものを受け継いでいく、そんな場所なのではないかと思います。

写真=婦人会、教師の皆さん