ニッケイ新聞 2010年10月1日付け
来年4月公開予定で、臣道聯盟の歴史を背景にした話題の映画『コラソンエス・スージョス(国賊)』に出演するために、常盤貴子や余貴美子などの日本の有名女優らが来伯し、だるま塾の森脇禮之塾長にその頃の雰囲気を教えてほしいと訪れた。森脇さんが語る言葉の一言一言に集中し、メモをとりながら聞いていたという。非日系人との娘の婚姻に父親が悲観して割腹自殺したエピソードなどでは、思わず手を止めて驚きの表情で聞き入るなど、日本とはまったく異なる日系社会の戦後の様子を吸収し、演技に活かしていたようだ。加えて伊原剛志、奥田瑛二などの有名な俳優も登場する、セリフの7割が日本語という異色のブラジル映画の制作状況をおってみた。
配役に関してヴィセンテ・アモリン監督は同映画サイトの中で、「日本語を完璧に使いこなす役者が欲しかった。ブラジルで探したけれど、中心人物はやっぱり本場から起用することに決めたんだ」と書いている。
同監督が事実関連の調査、配役、脚本などの構想作りに9年も費やしているという。多くの一世や二世に話を聞いた。「彼らに共通した意見は、日本人でない人種がこの歴史を語らなくちゃいけないということだった。つまりブラジル人の目線から取り上げなければならないほど日系社会でタブー化している」という印象だという。
日本の名優たちを取り揃えて今年3月からカンピーナス地方パウリーニャ市にある東山農場を撮影現場の拠点としてクランクインした。
土道、土壁の家、独特の草のにおいが充満した家屋、1946年当時の雰囲気を十分に演出するため、セットはゼロから制作された。
原作は、2000年にノンフィクション作品として話題を呼んだブラジル人ジャーナリストのフェルナンド・モラエスの同名本だ。祖国戦勝を信じる勝ち組が「国賊」などと負け組をののしった言葉が、同書では「coracoes sujos(直訳=心の穢れた者達)」とポ語翻訳され、タイトルに採用されたようだ。原作は歴史の闇を紐解く鍵として臣道聯盟の事件を追った作品だったが、映画はそれを土台にしつつも、むしろ愛、特に夫婦愛について焦点をあてている。
クランクイン直前、役作りのために来伯した女優ら3人が、サンパウロ市ラッパ区で日本語や同文化を子供たちに教える「だるま塾」の森脇禮之塾長を4月末月に訪ねていた。森脇さんが話すことを一言も逃すまいと懸命に筆を走らせていたという。
訪ねたのは女優の常盤貴子と余貴美子だ。常盤貴子は昨年のNHK大河ドラマ『天地人』で直江兼続の妻・おせん役として活躍した。もう一方の余貴美子も日本アカデミー賞で数々の助演女優賞を受賞している。
森脇さんは、こんな話を聞かせたという。「僕が移住してきたのは60年代。直接事件に遭遇したことはないのですが、そういう雰囲気はまだあちこちで色濃く残っていた。特にパウリスタ線が一番激しかったかなあ」。戦前からの外国語教育の禁止にも関わらず、移民は隠れて懸命に日本語教育を施した。
「勝ち組は家族揃って日本語が堪能であり、躾に非常に厳しかった。だから負け組との見分けが瞬時にできた」と振り返る。(つづく)
写真=だるま塾にて。左から常盤貴子、関係者、森脇塾長、余貴美子