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日本の俳優が臣道聯盟の映画に=連載《下》=「パンドラの箱開ける」

ニッケイ新聞 2010年10月2日付け

 総予算は800万レアル、監督が非日系で、セリフの7割が日本語という異色のブラジル大作映画『コラソンエス・スージョス(国賊)』の主人公は、カメラマンのタカハシだ。演じるのは映画『硫黄島からの手紙』で西竹一(にし・たけいち)中佐を演じた伊原剛志(いはら・つよし)。映画はもちろんテレビドラマにも多数出演している日本の有名男優だ。
 その妻みゆき役が常盤貴子。夫と共に1946年にサンパウロ市郊外に転居し、当時、禁止されていた日本語を教える教師をしていた設定になっている関係で、教師の実体験を聞こうとだるま塾に森脇さんを訪ねた。
 日本移民が点々と暮らす小さな町で、祖国日本の敗戦を信じられない「勝ち組」と、敗戦を受け入れた「負け組」が分裂し、互いに睨み合う。
 主人公のタカハシは「勝ち組」に属し、徐々にその活動に熱中していき、日の丸で汚れた靴を拭いたという警官に抗議する行動に呼ばれる。本来穏やかで優しい人柄だったはずの夫が豹変していく姿に、妻みゆきは心を痛める。戦争によって引き裂かれる夫婦の絆が映画の主要なテーマとなり、物語はサスペンス調となる。
 映画監督としても知られる俳優の奥田瑛二は「コロネル・ワタナベ」という軍人役なので、もしかしたら臣聯の吉川順治理事長(退役陸軍大佐)に関連した役かもしれない。
 日本からは『ラストサムライ』にも出たベテラン俳優・菅田俊も農業組合の理事長役で出演している。勝ち負けテロで亡くなったバストス産業組合理事長の脇山甚作退役陸軍大佐を連想させる役回りかもしれない。劇中のハイライトシーンともいえる場面だろう。
 登場人物の中には画家で、ノベーラや映画で俳優としても活躍する金子謙一さんもいる。今回の役柄は農夫で、自宅で開かれたパーティーに警察が侵入するシーンから始まるらしい。
 ロケの半分が行われたのはパウリニア市とその周辺。地元紙パウリニア・ニュース6月24日付けによれば、日本語セリフは石丸ゆき氏によって言葉を整えている。彼女はクリント・イーストウッド監督の『硫黄島からの手紙』でも通訳を務めた実績がある。
 同映画サイトによれば、7年前にアモリン監督と脚本のデビット・フランサ・メンデス氏がリオの海岸のバールで、ナプキン(グアルダナッポ)に書き付けたアイデアから始まった。09年中ごろからロケ地探しや配役の準備を始め、3カ月におよぶ予行演習を経て実際のロケは34日間行われ、その間に925カットが撮影された。
 4月末にだるま塾を訪れた常盤貴子や余貴美子に、森脇さんはこんな体験も語った。62年、移住の2ヵ月後、たまたまある葬式に行ったら、娘が非日系の警官と結婚することを悲観した父親が切腹自殺をしたとの経緯を聞いて驚いたという。「その家は日本では士族の出で、先代に申し訳ないと切腹を選んだとのことでした」。女優等は、思わず顔を上げてメモする手を止めたという。
 5月4日付けフォーリャ紙によれば、日本の俳優とアモリン監督との通訳を務めたクロツ・ニウバさんは「当時をまったく知らない若者にとって、この映画は日本移民の歴史を知る出発点になる」と意義付けた。
 主役の伊原剛志は同フォーリャ紙の、「日本の観客はどうこの映画を見るだろうか」との質問に答え、「大半がまったくこの事実を知らない日本の日本人にとって、パンドラの箱を開けるような映画になるだろう」と答えている。
 来年4月のブラジル公開に向けて、すでに撮影も終了し、編集作業に入っており、日本でも上映されるよう交渉中だという。この映画は国内で、国際映画祭で、そして日本でどんな評価を受けるのだろうか。(終わり)

写真=軍服をきた奥田瑛二と日系の協力者のみなさん(映画サイトより)