ニッケイ新聞 2010年10月9日付け
7日スウェーデン・アカデミーは、2010年ノーベル文学賞をペルー人作家マリオ・ヴァルガス・リョサ氏(74)に贈ることを発表した。同賞候補として挙がっていた村上春樹氏や英国作家イアン・マキューアン氏をしのぎ、スペイン語文学で11人目、ラテンアメリカでは1990年以来の受賞者となった。8日付伯字紙が報じた。
60年間を文学活動に捧げた後、今回ついにロマンス小説「ラ・カテドラルでの対話」(1969年)で受賞。30作以上の歴史小説、戯曲、エッセイなどを出版し、代表作品には「都会と犬ども」(62年)「緑の家」(66年)「世界終末戦争」(81年)などがある。ロマンス小説であっても政治的見方が表現される同氏の作品に、審査委員会は「権力の構造や個人の抵抗、反抗、挫折の鋭い描写がある」と受賞の理由をあげている。
1936年ペルー南部のアレキパで生まれたリョサ氏は、国立のサンマルコス大学で文学を専攻後、スペイン・マドリードの大学に進み、哲学と文学で博士号を取得した。
左翼的だった同氏の政治思想は、徐々に右翼的なものへと移行している。帰国後に政治活動に携わる中、1987年にはアラン・ガルシア大統領政権下で経済への政府介入政策に反対する自由運動を率いた。1990年にはネオリベラル的な改革を唱道し、中道右派連合から大統領に立候補し、アルベルト・フジモリ氏との決選投票にまで至った。その後は、穏健的保守政党の支持にまわっている。
リョサ氏自身が「今回の受賞はラ米文学に再び目が向けられる機会になる」と喜びを示す通り、ラ米作家のノーベル文学賞受賞は20年ぶり。リョサ氏以前は、90年のメキシコ人オクターヴィオ・パス氏、82年のコロンビア人ガルシア・マルケス氏に遡る。
伯字紙各紙が「文学界ではリョサ氏の存在が長い間忘れられていた」と論じているように、同氏の作品はラ米の代表として同地域で常に高い評価を得てきたものであり、今回の受賞は大きな驚きをもたらすものではなかったようだ。授賞式は12月10日にストックホルムで開催される。
現在、リョサ氏は米プリンストン大学で教鞭を取る。11月に最新のロマンス小説が出版され、国内では今月、翻訳版「Sabres&Utopias」が到着する。