ニッケイ新聞 2010年11月6日付け
米国の連邦準備制度理事会(FRB)が3日に発表した新たな景気刺激策が急速なドル安傾向を招き、4日の世界各国の証券市場は軒並み上昇。ニューヨーク証券市場は2年2カ月ぶりに国際的な金融危機以前の高値を記録して気を良くしているものの、ブラジル始め、新興国からは不満の声が相次いでいるようだ。
米国の新景気刺激策が世界経済に深刻な影響を及ぼすであろう事は4日付伯字紙でも報じていたが、5日付伯字紙は、米国ドルが世界経済を侵食したとの手厳しい批判の声を報道。ブラジルのマンテガ財相も、米国の決定は国際的なバブルを形成させる危険を孕んでいると懸念の色を隠さない。
ペトロブラスの増資発表で9月のドル流入が急増し、ドル安レアル高が一段と進んだ事を受け、外国人投資家に対する金融取引税(IOF)引き上げを10月中に2度行ったブラジルが、1ドル=1・70レアル超で安定と安堵したのも束の間の事だった。
4日の為替相場は、中銀の介入にも拘らず、前日比1・35%、通年では3・84%のドル安となる1ドル=1・676レアルまで逆戻り。財務省や中銀、市場関係者の努力を無に帰すような結果は世界各国の通貨でも起き、新興国を中心に不満の声が噴出したのが4日の出来事だ。
一方、10月27日に2万9435ポイントを記録して以来、上昇に転じていたボヴェスパ(サンパウロ証券市場)の指数は4日、前日比1・52%、通年で6・43%上昇の7万2995ポイントを記録。08年5月20日に記録した7万3516ポイントの最高値を超えるのは時間の問題と見られている。
今回のような急激な市場の動きは、米国が景気刺激策として6千億ドルを投入する事や低利継続を決めた事が最大の要因で、需給バランスが崩れた後はドル安がさらに増幅。米国国内市場で吸収できずに世界各国の市場に溢れ出たドルが、各国の通貨価値にまで影響を及ぼした事になる。
また、証券市場の軒並み上昇は、急激なドル安と各国の通貨価値上昇によるインフレ再燃を懸念した投資家達が、価格急騰を防ぐため、金や銀、銅、石油などのコモディティや株の購入に走った事が原因だ。
ブラジルの場合、7・5~8%と予想される経済成長と政策金利の高さ、好調な国内消費などを原因とする国外投資の加熱が続き、10月は69億1千万ドルの入超。ペトロブラス増資もあった9月には及ばないまでも、1~8月の累計を上回る入超額を記録した。
インフレ高進回避のために政策金利の急激な引き下げが出来ないブラジルがこれからも外国からの投資の的となる事は明白。ドル安対策の矢も尽きようとしているブラジルが、G20サミットで通貨戦争の責任を問う先鋒となるのは必至の事だろう。