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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2010年11月11日付け

 雑多に積まれた我が陋屋の本の山。ウィスキーをなめつつ背表紙眺め、気の向くまま頁をめくり、興が乗れば脇に携え寝室へ。底冷えするサンパウロの夜の愉楽だが、ときおり積読を反省して整理を思い立つ。その切り崩しにかかる時に限って、気にかかる記述に足止めされることも。多くの手を経てきた古本が転住に疲れ〃居住権〃を主張しているような気になり、いとおしく思う瞬間だ▼開場前に行列ができる唯一のイベントである『春の古本市』が14日、文協ビル新館展示室で開かれる。今回も1万冊が大放出。日本の手入れされた古本とは違い、個性豊かな面々が揃う。メモ書きや汚れ、シミ付きの歴戦の勇士や、本好きのご主人に愛された落款付きのおぼっちゃんも。昭和30年代発行、くずれかけの『主婦の友』を手に「花嫁移民が田舎で読んだものかな」と想像逞しくさせるのも楽しい▼「お金のかからない最大のイベント」。文協図書委員で古本市のコーディネーター細川多美子さんは、そう冗談めかしながらも〃コロニアの善意〃に支えられていることを強調する。本は全て寄付によるもので、整理・販売に携わるのはボランティア。今回も約50人が名乗りを挙げる▼収益金は図書館運営費に充てられる。「読みたい本、改善すべき点などの要望を寄せてほしい」と細川さん。コロニアのコロニアによるコロニアのための図書館―その充実は日本文化継承のバロメーターでもある。連休の中日だが、財布の紐を緩められた読者諸兄姉がナタル、正月を豊かに過ごす一冊に出会うこと願うや、切。泣く泣く山を崩したコラム子は賽の河原で思案中―。(剛)