ニッケイ新聞 2010年11月12日付け
13年ほど前から群馬県に住んでいる日系の知 人が、無料の日本語教室に最近通い始めたというので何だろうと思っていたら、厚生労働省の実施する日系人就労準備研修だった。日本人と結婚していても日本語は極めてたどたどしい。13年間いてその程度の日本語の者が、わずか数週間の研修を受けて急に日本語の履歴書を書いたり、面接を受けたりできるとは到底思えない▼もちろん就労準備研修の意義は大きいが、日本移民の経験に照らしても、長年その地の大きなコミュニティに守られて暮らした一世が、改めて語学学習に取り組んでも限界がある。車の両輪のように、日系子弟の公立校適応にこそ力を入れることが効率的な成果を生む▼先日のデカセギ国際シンポの中で在日子弟の教育問題も扱われたが、就労準備研修の講演に比べ、踏み込んだ分析も成果発表もないのが残念だった。帰伯希望者の大半、4万人以上が帰国した。いま日本に残っているのは定住希望者中心という状況の中で、帰伯を前提にしたブラジル人学校存続の意味は何なのか▼ブラジル人学校から日本の高校への進学は難しく、いったん公立中学に編入しなおす必要があるとの話もあった。日本定住希望なら、ブラジル教程を習う意味を考え直す必要がある▼内閣府も定住者としての日系人受け入れ方針を検討中だ。日本社会に統合される在日ブラジル人の最先端にいるのは日系子弟だ。何十年住んでいても日本語の苦手な親と日本社会との中間層としての二世子弟が育ってくれれば、20年も待たずにブラジル人コミュニティは日本社会に統合される。道は遠いにしても、目指すべき方向は徐々に明らかになってきている。(深)