ニッケイ新聞 2010年11月13日付け
デカセギの高齢化が進んで健康相談の内容にも変化が――国外就労者情報援護センター(CIATE、二宮正人理事長)が主催したデカセギ25周年記念の国際シンポジウムで6日、在日ブラジル人向け電話健康相談(ジスキ・サウージ)プログラムの代表理事、宮田ネウザ恵美子さん(43、二世)は、滞日年数の延長と共に慢性病が増加しているほか、金融危機後の高失業状態や将来に展望が開けない閉塞感も影響してうつ症状が増えていることを明らかにした。
デカセギブーム初期の1993年、ブラジル人集住地域にブラジル人医師が出向いて医療相談をする「健康キャラバン」が始められたが、95年の阪神淡路大震災でブラジル人が被災したことが話題となり、翌96年からより広範囲に住む者からの相談を常時受けられる現在の電話相談の形になった。
「当時からブラジル人が抱える根本的な問題は日本語。医療関係者との意思疎通が困難で、病院通訳にも誤訳の問題がままみられた」と宮田さんはふり返る。ブラジル人医師は日本の医師免許がないことから医療行為は禁じられており、患者と直接面談せずに電話相談という形で最寄りの通訳付き病院を紹介するシステムになっている。
志ある企業からの支援により、5人のバイリンガル日系医師が相談を受けており、宮田さんはその一人。この14年間で約5万件の電話を受けた。
山田サユリ・ヘレナ医師の報告書によれば堕胎、うつ、乳がん、性病などの相談が多い。中にはイジメ、自閉症も。男性は高血圧、糖尿病など。「若年で出産した女性の場合、看護婦が日本語で説明しても不安感が収まらず、同じ内容をポ語で繰り返しただけで安心したこともある」という。
津島マリエ・ソニア医師の報告書では、言葉の問題からブラジル人患者と日本人医師が信頼関係を築くのが困難な場合があり、処方薬を患者が勝手に止めてしまうことが目立つという。パニック症候群やうつ状態だったあるブラジル人青年は、日本人医師から処方されたが直らず、ジスキ・サウーデに電話してポ語で十分に悩みを聞いてもらい快方に向かった事例もあった。
心理療法士の宮田さんは14年前の時点では男性の単身渡日が多く、最も多い相談内容は労働環境に関する苦情だったという。時間が経つに連れて配偶者ができるようになり連れ合いに関する苦情相談が増え、次には子供が生まれて教育問題についての話が増えていくという流れがあった。
子供が育つと自閉症や麻薬や不良化に関する心配の相談、面倒を見る親の側のうつ症状などが増えたという。「最初は数年で帰伯して事業を起こす目的をもって日本に来たが、いつまでたってもお金が貯まらず、子供は成長し、いつの間にか当初の目的を見失い、帰りたくても帰れない状況が固まりつつある。金融危機による失業もあって閉塞状況から将来に夢が持てず、うつに陥る場合が多い」と分析する。
最後に「状況としてはすでに彼らは移民だが、本人たちは一時滞在だと思っている部分がある。その中途半端さのしわ寄せが子供たちへの教育に悪影響を与えている」と問題提起した。