ニッケイ新聞 2010年11月18日付け
世界に散らばる在外ブラジル人約300万人の代表者を選ぶ「在外ブラジル人代表者評議会」(Conselho de Representantes Brasileiros no Exterior=CRBE)の初めての選挙が今月はじめに実施され、正評議員16人中3人に日系人が選ばれたことがこのたび分った。日本を含む地域の評議員に選ばれたのは、武蔵大学準教授のアンジェロ・イシさん(東京在住)、コレジオ・ブラジル・ジャポン校長のカルロス・シノダさん(愛知)、ペトロブラス役員のニュートン・ソノキさん(東京)。彼らには在外ブラジル人を代表する立場から、ブラジル中央政界に働きかけ、在外者の権利を守るべく提言をしていく役割が課せられている。本紙前身であるパウリスタ新聞ポ語編集部で記者をしていた経験もあるイシさんに、当選の感想と抱負を聞いてみた。
イシさんは「僕たちは投票を通じて信任を受けた代表者として、政府に対して発言できる。このような制度が新設されたのは非常に画期的なことです」と語り、この制度の意義を高く評価する。
在外ブラジル人代表者評議会では、世界を「北アメリカとカリブ諸島」「中南米」「欧州」「アジア・オセアニア・中東・アフリカ」の4地域に分け、各地域から4人ずつ正評議員と補充評議員を選んだ。
日本からは17人が立候補する乱立状態だったが、1~9日までのインターネット投票の結果では、日本を含む地域の正評議員4人のうち3人が日本から選ばれた。また補充評議員4人中2人も日本から入った。
この評議員は、いわゆる連邦議員のような重みや報酬・待遇はなく、あくまでボランティア活動の範囲内で在外コミュニティ代表者として、政治家や官僚を通して政府に働きかけていく役割を持っているという。
12月2日からリオで開催される第3回在外ブラジル人コミュニティ世界大会の中で、3日に出席予定のルーラ大統領から直接信任される形で2年間の任期が始まる。
Eメールでの取材に対し、イシさん(43、三世、サンパウロ市生まれ)は「率直なところ、立候補すべきか否かずいぶん迷いました」と胸中を吐露する。本紙既報の通り、彼は早くから「在日ブラジル人一世です」と宣言し、日本に根を張る定住思想を主張してきている。
パ紙で働いた後にアブリウ社でヴェージャ誌記者などをし、90年に東京大学大学院などに留学したのをきっかけに日本生活が始まり、NHKラジオジャパンのアナウンサーも勤め、日本語著作もある完全なバイリンガルで、在日ブラジル人で数少ない日本の大学教員だ。
自身がコラムを執筆する『アウテルナチーバ』誌の読者や全国在日ブラジル人ネットワーク(NNBJ)などの後押しにより、選挙では日本からの立候補者中、トップ当選した。「誇りに思うと同時に責任の重さも自覚しています」とし、具体的な提案については「日本から当選した他の2人の評議員との間で急いで調整しようと考えています」という。
イシさんは、在日ブラジル人の利益のみを考えず、日本を含む地域全体の在外者の生活向上を念頭において活動することを基本にすると考えている。在外ブラジル人同志の文化交流を盛んにするため、各国のブラジル人が制作した映画やビデオなどの映像作品による映画祭の実現を目指しているという。