ニッケイ新聞 2010年11月30日付け
その昔―「黒いオルフェ」という映画があった。リオのカルナバルを舞台に黒人の悲恋を描きアカデミー賞を獲得した名画であり、世界の若者がボサノヴァに魅了されもした。主演のオルフェはギターのうまい市電の運転手。田舎からカルナバル見物にきた娘のユーリディスとの恋は哀しくも美しい。今、思うと、あのオルフェはファヴェーラに住んでいたと見えるのだが、どうだろう▼あの頃、南米に興味を抱く学生らにも「フアヴェーラ」は話題になった。「警察官も一人では行けない」の話もあり、とても危険はところだなの印象を強くしたものである。あの街を取り囲むように連なる山々には、そうした貧しい人々の家が軒を連ねる。リオを上空から見れば一目瞭然だが、あそこにはいやになるほどにファヴェーラが多い▼現在も130万人が暮らしている。こうした貧困地域は今も増えており。悪質な犯罪が跋扈し、暴力団まがいの悪がのさばっている。以前から犯罪は多いが、それでも海岸での引っ手繰りなどであり、今のような麻薬の巣窟ではない。勿論、善良な市民が多い。貧から逃げるために罪を犯すのは極めて少ないが、やりたい放題の無謀さに無辜の民が苦しむのは真に情けない▼戦車と武装警官が出動し、既に50人超を銃殺し、服役中の密売団幹部を他州に移動させているが、オニブスや車への放火も絶えない。真面目な市民らが駆け足で帰宅するような町の危険は取り除くしかないが、麻薬撲滅の戦いはよほど腰をすえないと効果が薄いことを治安当局もきちんと知って貰いたい。(遯)